鎌倉前期の説話集。鴨長明の編。〈発心〉とは,〈菩提心(ぼだいしん)(さとりを求める心)〉をおこすこと。序に,自分の心のはかなく愚かなことを反省し〈心の師とは成るとも心を師とすることなかれ〉という仏の教えのままに心を制御するならば,迷いの世界の生死を離れて早く浄土に生まれる,と説かれ,愚かな心を導くために深妙な法ではなく身近な見聞を集め記した,と述べられている。収録説話は,発心出家した人々のさまざまな機縁を述べたものと,往生を遂げた人々のさまざまな行いを述べたものが中心。編者による批評,評論が多く,説話は説明のための例証として用いられている。読者の受ける印象としては,むしろ法語であり,仏教書である。執着を離れ,ひたすら往生を願え,と説かれ,また,往生のためには悪縁をしりぞけて善知識にたよれ,と説かれる。絶ちがたき恩愛を絶ったり,あるいは恩愛を縁として発心した人々の説話が収録され,阿弥陀仏の願の広大さが説かれ,究極的にはひとりひとりの心のもちようが重要である,と説かれる。〈心〉こそ人を仏道に導くものである,と述べられている。玄賓(げんぴん)をはじめとする,名聞(みようもん),利養(りよう)からのがれようとした人々の説話,〈数奇(すき)〉を縁として仏道におもむいた人々の説話は,読者に強烈な印象を与えている。《方丈記》(1212)との成立の先後は不明であるが,長明の仏教思想を知るためには欠かすことのできない資料である。
執筆者:出雲路 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鎌倉初期の仏教説話集。8巻。鴨長明(かものちょうめい)作。1215年(建保3)ごろ成立か。高僧や名僧という評判がたつのを嫌って、突如失踪(しっそう)、渡し守に身をやつしていた玄賓僧都(げんぴんそうず)、奇行に及び、「狂人」との噂(うわさ)を意識的に広めた僧賀上人(そうがしょうにん)など、純粋な宗教家たちの話。あるいはその逆に入水(じゅすい)往生すると触れ回るものの、投身の直前、現世への未練をおこしたため、往生に失敗した僧など、未練、執着といったものの怖(おそ)ろしさを述べる話。さらには、和歌や音楽に心を澄まし、俗世を忘れた人々の話などを中心に約100余の話を載せる。各話には比較的長い鴨長明の感想が付け加えられており、惑いやすい人間の心、乱れやすい人間の心を凝視し、すこしでも心の平安を求めようとする作者の強い意図が感じられる。収載説話のなかには長明以外の後人の増補もあるらしいが、後続の『閑居友(かんきょのとも)』(1222成立)、『撰集抄(せんじゅうしょう)』(1287ころまでに成立か)などの仏教説話集に大きな影響を与えている。異本として説教色の濃い5巻本も存在する。
[浅見和彦]
『簗瀬一雄訳注『発心集』(角川文庫)』▽『三木紀人校注『新潮日本古典集成 方丈記・発心集』(1976・新潮社)』
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…上巻21話は僧侶を中心とした発心(ほつしん)談,下巻11話は女性を中心とした往生談を主とする。先行する説話集や往生伝などを参考にしており,とくに《発心集》にならった跡が顕著であるが,単純な引き写しを避け,話の後に編者の感想文を記し,類例をあげるなど,細やかなくふうをこらしている。〈清水の橋の下の乞食の説法の事〉〈恨み深き女生きながら鬼になる事〉など,筋は平凡だが,当時の宗教と現実生活の相関を考えさせる内容を持つ。…
※「発心集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
小麦粉を練って作った生地を、幅3センチ程度に平たくのばし、切らずに長いままゆでた麺。形はきしめんに似る。中国陝西せんせい省の料理。多く、唐辛子などの香辛料が入ったたれと、熱した香味油をからめて食べる。...
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