発心集(読み)ホッシンシュウ

デジタル大辞泉 「発心集」の意味・読み・例文・類語

ほっしんしゅう〔ホツシンシフ〕【発心集】

鎌倉時代仏教説話集。3巻または8巻。鴨長明著。建保4年(1216)以前の成立とされるが未詳。発心譚・遁世譚・往生譚・霊験談などを集めたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「発心集」の意味・読み・例文・類語

ほっしんしゅう‥シフ【発心集】

  1. 鎌倉初期の仏教説話集。現在流布版本の八巻本がよく知られるが、異本系の五巻本もあり、鎌倉初期は三巻本であったか。鴨長明作。建暦二~建保四年(一二一二‐一六)頃の成立とされる。発心譚・遁世譚・往生譚・数奇者譚など一〇二話からなる。説話には隠遁者無名の発心者の説話が多く、また長明自身の経験譚及び評論も含む。長明はこれを信仰的立場より自由な芸術的立場に立って書いたことが「わが一念の発心を楽しむ」という序文で知られ、仏教説話中でもっとも自照性、文芸性の濃いものとされている。

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改訂新版 世界大百科事典 「発心集」の意味・わかりやすい解説

発心集 (ほっしんしゅう)

鎌倉前期の説話集。鴨長明の編。〈発心〉とは,〈菩提心(ぼだいしん)(さとりを求める心)〉をおこすこと。序に,自分の心のはかなく愚かなことを反省し〈心の師とは成るとも心を師とすることなかれ〉という仏の教えのままに心を制御するならば,迷いの世界の生死を離れて早く浄土に生まれる,と説かれ,愚かな心を導くために深妙な法ではなく身近な見聞を集め記した,と述べられている。収録説話は,発心出家した人々のさまざまな機縁を述べたものと,往生を遂げた人々のさまざまな行いを述べたものが中心。編者による批評,評論が多く,説話は説明のための例証として用いられている。読者の受ける印象としては,むしろ法語であり,仏教書である。執着を離れ,ひたすら往生を願え,と説かれ,また,往生のためには悪縁をしりぞけて善知識にたよれ,と説かれる。絶ちがたき恩愛を絶ったり,あるいは恩愛を縁として発心した人々の説話が収録され,阿弥陀仏の願の広大さが説かれ,究極的にはひとりひとりの心のもちようが重要である,と説かれる。〈心〉こそ人を仏道に導くものである,と述べられている。玄賓(げんぴん)をはじめとする,名聞(みようもん),利養(りよう)からのがれようとした人々の説話,〈数奇(すき)〉を縁として仏道におもむいた人々の説話は,読者に強烈な印象を与えている。《方丈記》(1212)との成立の先後は不明であるが,長明の仏教思想を知るためには欠かすことのできない資料である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「発心集」の意味・わかりやすい解説

発心集
ほっしんしゅう

鎌倉初期の仏教説話集。8巻。鴨長明(かものちょうめい)作。1215年(建保3)ごろ成立か。高僧名僧という評判がたつのを嫌って、突如失踪(しっそう)、渡し守に身をやつしていた玄賓僧都(げんぴんそうず)、奇行に及び、「狂人」との噂(うわさ)を意識的に広めた僧賀上人(そうがしょうにん)など、純粋な宗教家たちの話。あるいはその逆に入水(じゅすい)往生すると触れ回るものの、投身の直前、現世への未練をおこしたため、往生に失敗した僧など、未練、執着といったものの怖(おそ)ろしさを述べる話。さらには、和歌や音楽に心を澄まし、俗世を忘れた人々の話などを中心に約100余の話を載せる。各話には比較的長い鴨長明の感想が付け加えられており、惑いやすい人間の心、乱れやすい人間の心を凝視し、すこしでも心の平安を求めようとする作者の強い意図が感じられる。収載説話のなかには長明以外の後人の増補もあるらしいが、後続の『閑居友(かんきょのとも)』(1222成立)、『撰集抄(せんじゅうしょう)』(1287ころまでに成立か)などの仏教説話集に大きな影響を与えている。異本として説教色の濃い5巻本も存在する。

[浅見和彦]

『簗瀬一雄訳注『発心集』(角川文庫)』『三木紀人校注『新潮日本古典集成 方丈記・発心集』(1976・新潮社)』

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百科事典マイペディア 「発心集」の意味・わかりやすい解説

発心集【ほっしんしゅう】

鎌倉前期の説話集。編者は鴨長明,晩年の作。8巻102話からなるが,第7・8巻は別人の手になる後補であろう。わざと破戒行為を標榜する〈偽悪の伝統〉や数寄(すき)と仏道とに揺れる心を描いた話など,人間の内面に踏み込んだ説話が多い。1651年片仮名版本,1670年平仮名版本の形で流布した。章立てや収載説話に異同のある写本の異本が神宮文庫ほかに蔵されている。
→関連項目閑居友私聚百因縁集宝物集

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「発心集」の意味・わかりやすい解説

発心集
ほっしんしゅう

鎌倉時代前期の仏教説話集。鴨長明編。建保2 (1214) 年頃成立か。現存本は8巻,102話を収めるが,原撰本 (3巻か) に増補改変を加えたものらしい。「我が一念の発心を楽しむばかり」 (序) に集めた発心,遁世,往生,因果,身代り,霊験などの説話がある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「発心集」の解説

発心集
ほっしんしゅう

鎌倉前期の仏教説話集。鴨長明の編といわれる
成立年代不詳。全8巻。菩提心を発して往生を遂げた説話を中心にして編集。ほかに見せるというよりは自己の信仰生活を内面化する手段として説話を集めたと思われる。『方丈記』と相通じるものがある。

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世界大百科事典(旧版)内の発心集の言及

【閑居友】より

…上巻21話は僧侶を中心とした発心(ほつしん)談,下巻11話は女性を中心とした往生談を主とする。先行する説話集や往生伝などを参考にしており,とくに《発心集》にならった跡が顕著であるが,単純な引き写しを避け,話の後に編者の感想文を記し,類例をあげるなど,細やかなくふうをこらしている。〈清水の橋の下の乞食の説法の事〉〈恨み深き女生きながら鬼になる事〉など,筋は平凡だが,当時の宗教と現実生活の相関を考えさせる内容を持つ。…

※「発心集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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