ジャータカ(読み)じゃーたか(英語表記)Jātaka

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャータカ」の意味・わかりやすい解説

ジャータカ
じゃーたか
Jātaka

パーリ語で書かれた古代インド仏教説話集。『本生話(ほんしょうわ)』と訳される。仏陀(ぶっだ)がサーキヤ人の王子としてこの世に生まれる以前、菩薩(ぼさつ)として幾多の生を重ねる間、天人国王、大臣、長者庶民盗賊、あるいは象、猿、孔雀(くじゃく)、兎(うさぎ)、魚などの動物として生を受け、種々の善行功徳を行ったという物語547話を集めたもの。

ジャータカ』はパーリ語の仏典、すなわち三蔵のなかの小部経典に含まれ、各話は現世物語と過去世物語と、この両話を結び付ける結合部の3部からなり、過去世の物語が各本生話の中心をなし、散文に短い詩句を交えている。これらの物語は、紀元前3世紀ごろから民間に語り伝えられていた伝説や説話を集め、これに仏教的色彩を加えたもので、1人の作者によってつくられたものではなく、成立は1世紀ごろと推測される。『本生話』のなかには二大叙事詩や他のサンスクリットの説話集『パンチャタントラ』『カターサリットサーガラ』などと共通の話も多く、また『千夜一夜物語』や『イソップ物語』などと同工異曲のものもあり、世界文学としても重要な地位を占め、伝説、説話、寓話(ぐうわ)、童話逸話、道徳的格言を含み、文学的価値も高い。しかも、同時にその教訓、機知、諧謔(かいぎゃく)、皮肉に富んだ物語のなかには、古代インドの社会生活や文化状態を伝える多くの資料を包含している。

 パーリ語『ジャータカ』の全訳は現存の漢訳仏典中にはないが、多くの物語は『生経(しょうきょう)』『仏本行集経(ぶつほんぎょうじっきょう)』『菩薩本生鬘論(ぼさつほんしょうまんろん)』などの漢訳仏典のなかに含まれ、これらによって日本にも伝えられている。『猿の生き肝(いきぎも)』(くらげ骨なし)や『月の兎』の説話は、いずれもその源流を『ジャータカ』に探ることができ、『今昔物語集』のなかにもジャータカ起源の話は多く、日本の説話や文学に与えた影響は大きい。

[田中於莵弥]

『『南伝大蔵経28~32』(1972・大蔵出版)』『中村元監修『ジャータカ全集』全10巻(1982~91・春秋社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャータカ」の意味・わかりやすい解説

ジャータカ
Jātaka

仏教説話集。 jātakaとは「生れたものに関する」の意で「本生話」「本生譚」とも訳す。インドに古くからある業報輪廻思想を仏陀にあてはめたもの。現世で悟る以前,仏陀が六道で菩薩としてさまざまな姿,形をとって善行を行う様を述べる。 (1) 現在世の物語,(2) 過去世の物語,(3) 過去と現在のつながりを説く3部門から成る。成立年代は明確ではないが,前2世紀にはこれを題材にした彫刻が出現している。説話数は 547 (パーリ語聖典) 。早くから各国語に翻訳されて西方諸国に広まり,『千一夜物語』『イソップ物語』『グリム童話』などに影響を与え,また日本の『今昔物語集』にも類話がみられる。

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