景戒(読み)けいかい

精選版 日本国語大辞典 「景戒」の意味・読み・例文・類語

けいかい【景戒】

平安初期の法相宗の僧。大和薬師寺に住み、延暦一四年(七九五伝灯住位を得る。「日本霊異記」の著者として知られる。生没年未詳。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

朝日日本歴史人物事典 「景戒」の解説

景戒

生年:生没年不詳
奈良後期から平安時代初期の僧。「けいかい」とも読む。日本最初の仏教説話集である『日本霊異記』(正式書名は『日本国現報善悪霊異記』)の著者。同書の上中下各巻の巻首や下巻末尾の署名から,薬師寺の僧で伝灯住位の僧位を有していたことが知られる。景戒についてはほかに同時代の史料がなく,自伝的な記述のみられる下巻第38話など同書の内部からわずかな情報が得られるにすぎない。まず生国であるが,同書には紀伊国名草郡(和歌山県)に関する説話が多いため,同地の出身であろうと推測されている。自分の根拠地(これもおそらく名草郡)に私堂を持ち,妻子養い,馬を持ち,半俗の生活を営んでいた。 同書には自らを私度僧(政府の認可を経ないで出家した僧)であったとする記述はないが,当初は私度僧として宗教活動を開始し,のちに官度の僧となって薬師寺に所属したと推測される。ただし,その後も薬師寺で起居したわけではない。生活,活動のほとんどは私堂のある紀伊国で営まれたと考えてよい。『日本霊異記』は中国の仏教霊験説話集である『冥報記』『金剛般若経集験記』を参照して作られている。また経典からの引用も数多いが,ほとんどは直接引用ではなく,『梵網経古迹記』『諸経要集』からの孫引きである。彼の説く教えの中心は,三宝(仏法僧―仏像・経典・出家者)を信心すれば利益が得られるというものであった。また五性各別説(修行者を五種にわけ,成仏可能な者と不可能な者とがあるとする説)を説いており,当時の法相宗の教学にもある程度の理解は持っていたらしい。道教,陰陽道の影響も認められる。景戒に関する研究は数多い。<参考文献>二葉憲香監修『日本霊異記研究文献目録』

(吉田一彦)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「景戒」の意味・わかりやすい解説

景戒 (けいかい)

奈良後期~平安初期の奈良薬師寺の僧。〈きょうかい〉とも呼ぶ。日本の説話文学集の創始とされる《日本霊異記(りよういき)》(822ころ)の撰述者。景戒に関してこれが唯一の資料である。因果応報の理の実在を確信し,中国の仏教説話集にならいながらも強い自国意識を失わず,善悪の現報をめぐる諸実例を全国的に集め,現世の行動の規範として人々を教化しようと撰述した。自伝的記事の中で,787年(延暦6)に在俗貧窮の身を前世の悪報と反省し,2度夢想発心し,8年後に伝灯住位の僧位を得たがなお身辺に変異をうけ,仏道精進をさらに決意している。聖武天皇代(724-749)とその時代に活動した行基を格別に称揚している点や,未公認の私度僧(しどそう)側の話が目だつ点など,彼の経歴をうかがわせる。学識等からみて有力戸主以上の出自だろうが,大伴氏,小子部(ちいさこべ)氏あるいは帰化人家系説,紀州名草郡出身説もある。なお,《本朝高僧伝》(1702)の景戒伝に学統を唯識(ゆいしき)と付するが,道昭-行基-景戒の流れからみて唯識・法相(ほつそう)か。
執筆者:

景戒 (きょうかい)

景戒(けいかい)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「景戒」の解説

景戒
きょうかい

「けいかい」とも。生没年不詳。奈良時代の薬師寺僧。日本最初の仏教説話集「日本霊異記(りょういき)」の著者として有名。その記述から,紀伊国名草郡の大伴氏出身が有力,また私度僧(しどそう)の説話が多いことから,景戒を私度僧とする説もあるが,ともに確証はない。ただ妻子や飼馬をもつなど半俗生活を営んでいた。景戒は787年(延暦6)の霊異記初稿本を増補し,822年(弘仁13)頃に完成させたとみられる。795年(延暦14)伝灯住位を授けられた。

景戒
けいかい

景戒(きょうかい)

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「景戒」の解説

景戒 けいかい

?-? 奈良-平安時代前期の僧。
法相(ほっそう)宗。仏教説話集「日本霊異記(りょういき)」の著者。同書から,奈良薬師寺の僧で妻帯していたこと,延暦(えんりゃく)14年(795)伝灯住位となったことなどが知られる。紀伊名草郡(和歌山県)の出身か。法名は「きょうかい」ともよむ。

景戒 きょうかい

けいかい

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の景戒の言及

【景戒】より

…日本の説話文学集の創始とされる《日本霊異記(りよういき)》(822ころ)の撰述者。景戒に関してこれが唯一の資料である。因果応報の理の実在を確信し,中国の仏教説話集にならいながらも強い自国意識を失わず,善悪の現報をめぐる諸実例を全国的に集め,現世の行動の規範として人々を教化しようと撰述した。…

【日本霊異記】より

…〈にほんれいいき〉とも呼び,正式書名は《日本国現報善悪霊異記(にほんこくげんぽうぜんあくりよういき)》,通称《日本霊異記》,略して《霊異記》ともいう。奈良薬師寺の僧景戒(けいかい∥きようかい)撰述。成立は最終年紀の822年(弘仁13)以後まもないころ,ただし787年(延暦6)には原撰本が成るか。…

【日本霊異記】より

…〈にほんれいいき〉とも呼び,正式書名は《日本国現報善悪霊異記(にほんこくげんぽうぜんあくりよういき)》,通称《日本霊異記》,略して《霊異記》ともいう。奈良薬師寺の僧景戒(けいかい∥きようかい)撰述。成立は最終年紀の822年(弘仁13)以後まもないころ,ただし787年(延暦6)には原撰本が成るか。…

※「景戒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android