日本大百科全書(ニッポニカ) 「企業選挙」の意味・わかりやすい解説
企業選挙
きぎょうせんきょ
公職選挙において、企業が特定の候補者を推薦・支持し、当選させることを目的として企業活動のなかで選挙運動を行うことをいう。企業ぐるみ選挙ともいわれる。企業選挙の形態は多様であるが、一般的には、会長・社長などの役員が特定候補への支持を決定し、これを「会社決定」ないし「業務命令」として、従業員に指示し、また、従業員を通じて下請・関連企業に協力要請するのである。具体的には、後援会加入の勧誘、支持者紹介カードの記入依頼、選挙用びらまき、選挙用葉書の宛名(あてな)書き、電話による票よみ活動などであり、ときには、勤務時間内に、また会社施設を利用して行われることもある。企業選挙がエスカレートしたのは、1974年(昭和49)の参議院選挙以来である。この選挙は与野党逆転の可能性ありといわれたこともあり、危機意識をもった自民党の要請にこたえて、大企業グループがそれぞれに特定候補の当選のために資金面から選挙運動に至るまで積極的な応援をしたのである。
このような雇用関係や取引関係における経済的優位性を利用した企業選挙は、憲法の保障する思想・信条の自由や公職選挙法の投票の自由の原則を事実上阻害するおそれがあるとして、企業内部からの告発、市民団体の批判があり、また、当時の中央選挙管理委員長も警告したのであるが、その後の国政・地方選挙においてもなお行われている。
[三橋良士明]