改訂新版 世界大百科事典 「伊丹椿園」の意味・わかりやすい解説
伊丹椿園 (いたみちんえん)
生没年:?-1781(天明1)
初期読本(よみほん)の作者。本名坂上善五郎。剣菱の蔵元津国屋の養子で,1781年に30歳前後で没したとされている。著作に《翁草(おきなぐさ)》《両剣奇遇》《唐錦(からにしき)》《怪異談叢》《深山草(みやまぐさ)》《女水滸伝》があり,刊行は1778-83年の間に集中している。いずれも当時流行の中国小説の構成や趣向を日本に移した小説で,《唐錦》の自序は,岡島冠山,岡白駒に始まった初期読本形成期の空気をよく伝えている。その文章・内容とも都賀庭鐘(《英(はなぶさ)草紙》)や上田秋成(《雨月物語》)には及ばなかったが,当時の新小説のブームに寄与した功績は大きい。《両剣奇遇》(1778)は金烏(きんう),玉兎(ぎよくと)の名剣の離合に幻術に長じた悪人の活躍を配した斬新な小説で,椿園の代表作である。《女水滸伝》(1783)は,足利時代の女傑を主人公にした通俗的な長編伝奇小説で,後期読本の先駆的な作品として意義がある。
執筆者:中村 博保
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報