電気通信における変調方式の一つで、信号電流の変化に応じて、搬送波の位相に変化を与えることをいう。PM(phase modulationの略称)ともいう。通信用の搬送波に、送信しようとする信号電流に対応するある種の変化を与えることを変調という。搬送波は通常、信号周波数より2桁(けた)以上高い周波数の正弦波を使用するが、この正弦波の振幅、周波数、位相の3要素のうち、とくに位相に変化を与える変調方式が位相変調である。伝送するデータによって搬送波の位相を最大限180度変化させる。従来は周波数変調(FM=frequency modulationの略称)の一種として扱われ、あまり重視されなかったが、1970年ごろから位相偏移変調(PSK=phase shift keyingの略称)として、デジタル方式によるデータ通信(気象衛星、地球観測衛星など)に利用されるようになった。さらに位相の変化を2相だけでなく、4相、8相、16相のように変化させるn相PSK方式の使用によって、情報伝送容量の2倍、4倍、8倍の増強に成功して情報伝送速度が高速化した。また、単純に位相変調とはいえないが、その範疇(はんちゅう)に入る技術として、搬送波の3要素のなかの、たとえば振幅と位相に変化を与えるような変調方式を直交振幅変調(QAM=quadrature amplitude modulationの略称)と称して、さらなる情報伝送速度の増強を図っている。この方式は、単純な位相変調よりも帯域が広がるため、衛星通信回線や光通信回線のようなブロードバンドの通信回線に適し、16QAM、64QAM、256QAMのように情報伝送容量が飛躍的に向上するシステムとなっている。そして、デジタル信号の伝送速度が高速化するにしたがって、従来、位相変調では不得意とされていた、テレビ映像のような高速度のアナログ信号の伝送も、デジタル符号化して容易に伝送することが可能となっている。
[石島 巖]
搬送波の位相を情報に従って変化させる変調方式をいい,PMと略記。搬送波が正弦波S(t)=Acos(ωct+θc)の場合,位相変調では,位相θcが変調信号v(t)に従ってθc=Δθv(t)と変化する。この方式の側波帯は無限に広がるが,通常1対または2対程度までの側波帯を使えば通信できる。変調信号がアナログである場合,位相変調は,周波数変調とともに角度変調と呼ばれ,妨害雑音に強いなど同じ性質を有している。一方,変調信号がディジタルである場合,位相変調は,周波数変調とかなり異なったものである。ディジタル位相変調は,PSK(phase shift keyingの略)と呼ばれ,変調信号が2値の場合2相,4値の場合4相,8値の場合8相という。1変調時間間隔(タイムスロット)当り,2相の場合は1ビット,4相の場合は2ビット,8相の場合は3ビット送れることになる。各タイムスロットにおいて,前のタイムスロットの送信信号との位相差として情報を送ると,受信側では,前のタイムスロットの受信信号との位相差から情報を復元すればよい。この復調方式を遅延検波といい,また,そのような変調方式をとくに差動位相変調(DPSK。differential phase shift keyingの略)という。PSKは,他のディジタル変調方式と比べると,同程度の回路規模の方式の中では誤り率特性がよいほうであるので,無線通信をはじめとして,多くの方面で使用されている。なお,搬送波がパルス列の場合の位相変調は,パルスの位置を変化させる方式であるので,パルス位置変調(PPM。pulse position modulationの略)とも呼ばれる。
執筆者:田中 良明
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※「位相変調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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