カトリック神学の用語としては,人間を超自然的な究極目的(聖書にいう永遠の生命あるいは救い)へと導く人間的行為を考察する神学の一部門。プロテスタント神学でいう神学的倫理学theological ethicsにあたる。中世のスコラ神学は思弁的と実践的との両側面をそなえた統一的学問としてとらえられていたが,16世紀中ごろから思弁的な〈スコラ神学〉と実践的な〈実証的・決疑法的神学〉とが区別されはじめ,やがて前者が教義神学,後者は倫理神学と呼ばれて,別個に論じられる傾向が強まった。とくに17,18世紀のカトリック倫理神学が決疑法に重点を置きすぎ,律法主義に陥ったことは否定できない。現代カトリック神学においては,教義神学と倫理神学は,前者は神について信ずべきことがら,後者は神に到達するためになすべきことがらを考察するという点で区別されつつも,〈神自身の知scientia Dei〉が一であるごとく,これら二者も〈信仰の学scientia fidei〉として一体であることが強調されている。
執筆者:稲垣 良典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報