改訂新版 世界大百科事典 「傾城壬生大念仏」の意味・わかりやすい解説
傾城壬生大念仏 (けいせいみぶだいねんぶつ)
歌舞伎狂言。三番続き。近松門左衛門作。1702年(元禄15)正月京の都万太夫座上演。配役は高遠民弥を初世坂田藤十郎,三宅彦六を中村四郎五郎,下人長兵衛を金子吉左衛門,傾城道芝を霧波千寿,かつ姫を浅尾十次郎。3月からの壬生寺地蔵尊開帳を当て込んで,壬生狂言と壬生地蔵の霊験を組み入れている。高遠家では若殿民弥が傾城道芝との愛におぼれて家を出たため,お家騒動が起こり,忠臣三宅彦六が心を砕く。民弥は言号(いいなずけ)かつ姫の邸に糟買(かすがい)となって現れ,傾城買いの独り狂言をする。民弥の妾は悪人に殺されて怨霊となる。民弥のために道芝身請けの金の調達に苦心していた彦六は,禿(かむろ)小伝を殺して金を奪うが,その小伝は別れて久しいわが子であった。彦六は盗人として責められるが,その苦しい心中が人々を感動させ,道芝は身請けされる。やがて悪人は滅び,小伝は地蔵菩薩の身代りで生きていたことがわかる。最後に壬生地蔵開帳の法会の場面がある。壬生狂言《桶取(おけとり)》の劇中劇,藤十郎得意のやつし芸や廓咄(くるわばなし)の独り狂言,殺された女の怨霊事,《隅田川》風の場面で船頭役古今(こきん)新左衛門が歌う古今節の歌など,多くの見せ場があり,彦六の小伝殺しは後世の幼児殺し劇の原型となった。元禄上方歌舞伎の代表作の一つ。大当りしたので後日(ごにち)狂言《女郎来迎柱(じよろうらいごうばしら)》,そのまた後日狂言《壬生秋の念仏》が続けて上演された。この年の大坂岩井半四郎座上演《けいせい夫妻池(みようといけ)》は本作からの狂言取りである。
執筆者:松崎 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報