京都市中京(なかぎょう)区壬生の壬生寺に伝わる念仏狂言。壬生大念仏、融通大念仏ともいう。4月21日から29日までの9日間行われ、国の重要無形民俗文化財に指定されている。寺伝によると、1300年(正安2)に壬生寺中興の祖、円覚上人(しょうにん)(道御(どうご))が「融通大念仏会(え)」を催し、勧善懲悪、因果応報の理を大衆にわかりやすく説こうとしてつくったものという。狂言を大念仏というのは、大念仏会の余興に狂言を演じたことによるのであろう。狂言といっても無言の仮面劇であることが大きな特色である。結願(けちがん)日に演じる『湯立(ゆだて)』『棒振(ぼうふり)』以外は全曲黙劇で、身ぶりや物真似(ものまね)に舞を交えて演じ、また『棒振』以外の登場人物はすべて仮面を用いている。もとは本堂の縁の上で演じたが、現在は能舞台風の大念仏堂(狂言堂)で演じられる。
行事は円覚上人の忌日1月28日に狂言を勤める人々の誓いの式から始まり、3月に狂言『棒振』に使う棒つくりの式があり、狂言の開始まで各種の儀式がある。開催期間中は、毎日初番に『炮烙割(ほうらくわり)』を演じ、最終日の最後には『湯立』『棒振』の曲を演じる。曲目は約30曲を伝えている。能から取材した曲に『土蜘蛛(つちぐも)』『紅葉狩(もみじがり)』『鵺(ぬえ)』『道成寺(どうじょうじ)』など、狂言から取材した曲に『花折(はなおり)』『節分(せつぶん)』『炮烙割(鍋八撥(なべやつばち))』など、壬生狂言独特の曲に『桶取(おけとり)』『愛宕詣(あたごもうで)』『大黒狩』『山端(やまはな)とろろ』『蟹殿(かにどん)』『餓鬼角力(がきすもう)』などがある。『桶取』『山端とろろ』などの世話物は、表現の美しさと人情の機微をとらえた内容によって、傑作とされる。楽器は鍔口(わにぐち)、締太鼓(しめだいこ)、笛の3種で、鍔口と締太鼓が「ガンデンデン」という八拍子の単調なリズムで囃(はや)し、ときおり笛が入る。演者はもと円覚上人の一族と伝える壬生郷士、現在は壬生大念仏講の人々である。同様の狂言は京都市の清凉寺(せいりょうじ)と千本閻魔(えんま)堂にもあるが、前者の嵯峨(さが)大念仏狂言(国指定重要無形民俗文化財)は黙劇であり、後者には台詞(せりふ)が入る。
[渡辺伸夫]
民俗芸能。京都市中京区壬生梛ノ宮(なぎのみや)町の壬生寺に伝えられる無言の念仏狂言で,大念仏狂言,融通大念仏狂言ともいう。国指定重要無形民俗文化財。鎌倉時代中期壬生寺の円覚上人(1223-1311)によって融通大念仏会が始められ,寺伝では狂言もそのころよりの伝承とするが,室町時代末期には大念仏会の余興として猿に扮した者が綱を使って曲芸をしたことが知られるだけで,狂言の上演は近世初期に同じ大念仏会のある千本閻魔(えんま)堂より学んだものらしい。演目は《桶取》《大原女》《大黒狩》など独自の曲と,能から材をとり天井に張った2本綱を使って演出をくふうした《紅葉狩》《船弁慶》《大江山》《土蜘蛛》,地獄のようすを見せる閻魔庁物狂言の《朝比奈》《餓鬼相撲》《賽(さい)の河原》など30曲余を伝える。いずれも無言劇で,囃子は鰐口・締太鼓・笛の3種で,緩やかなリズムと旋律で進行する。現在4月21日から29日までの大念仏会の期間に境内の狂言堂で,壬生大念仏講の人びとによって演じられる。毎日,最初に《炮烙割(ほうらくわり)》を演じ,最終日の最後には《湯立》《棒振》を演じる。なお,近年は節分会に《節分》を見せている。同系の狂言は,京都嵯峨の清凉寺釈迦堂や中京区の神泉苑でも演じられる。
執筆者:山路 興造
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…鑑真の創建とも伝えるが,縁起では,991年(正暦2)園城(おんじよう)寺(三井寺)快賢が仏師定朝に地蔵菩薩像を造らせ,1005年(寛弘2)堂舎を建てて小三井寺と号したのに始まるという。鎌倉中期に当寺を中興した円覚上人は,勧進のため融通大念仏を行い,戒律と念仏を貴賤にすすめたが,このとき児女にまで念仏の妙理を理解させるために始めたと伝えるのが壬生狂言である。毎年4月に鰐口・締太鼓と笛で行う面をつけた無言劇で,2月の節分会とともに境内は参詣者で大いににぎわう。…
※「壬生狂言」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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