念仏(読み)ネンブツ

デジタル大辞泉 「念仏」の意味・読み・例文・類語

ねん‐ぶつ【念仏】

[名](スル)仏の姿や徳を心中に思い浮かべること。また、仏の名を口に唱えること。観仏称名浄土教では、阿弥陀仏を思い浮かべ、また、「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ」と口に唱えること。特に後者をいう。

ね‐ぶつ【念仏】

ねんぶつ」の撥音の無表記。
「僧ども―のひまに物語するを聞けば」〈かげろふ・上〉

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精選版 日本国語大辞典 「念仏」の意味・読み・例文・類語

ねん‐ぶつ【念仏】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。
  2. 仏を憶念すること。三念・六念などの一つ。〔大智度論‐六一〕
  3. 特に、阿彌陀仏を念ずるもので、これに理観と事観と口称の三つが含まれるが、通常、南無阿彌陀仏の六字を口に唱える口称の意に用いられる。ねぶち。ねぶつ。
    1. [初出の実例]「念仏は慈覚大師の唐(もろこし)より伝へて貞観七年より始め行なへるなり」(出典:観智院本三宝絵(984)下)
    2. 「法師ばらの二三人ものがたりしつつ、わざとの声たてぬねん仏ぞする」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕顔)
  4. 苦言や説教などを、いつも同じ調子で一方的に述べ立てること。また、その苦言や説教。
    1. [初出の実例]「東大空手部をめざして勉強しろ、と同じおねんぶつがはじまるよ」(出典:偽原始人(1976)〈井上ひさし〉穴ぐらぐらし)

ね‐ぶつ【念仏】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ねんぶつ(念仏)」の撥音「ん」の無表記 ) =ねんぶつ(念仏)
    1. [初出の実例]「僧ども、ねぶつのひまに、ものがたりするをきけば」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)

ね‐ぶち【念仏】

  1. 〘 名詞 〙ねんぶつ(念仏)

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改訂新版 世界大百科事典 「念仏」の意味・わかりやすい解説

念仏 (ねんぶつ)

仏・菩薩の相好や功徳を心におもい浮かべたり,またその名号を口に唱えること。前者を観想念仏といい,後者を称名(しようみよう)念仏という。念仏には釈迦,薬師,弥勒,観音などの念仏もあるが,阿弥陀仏の念仏が代表的で,ふつう念仏といえば,阿弥陀仏の相好やその誓願のことを憶念したり,〈南無阿弥陀仏〉の6文字の名号を口に唱えることをいう。阿弥陀信仰が興隆し,西方極楽浄土へ往生したいとの願望が強まるにつれ,念仏が往生のためには必須の行業であると考えられた。日本では奈良時代から平安時代中期にかけて観想念仏が盛んであり,観想のために阿弥陀浄土変相図がつくられた。智光曼荼羅,当麻(たいま)曼荼羅などがそれである。平安時代初期に最澄の弟子円仁(えんにん)が,唐の法照(ほつしよう)がはじめた五会(ごえ)念仏の流れをくむ五台山念仏三昧法を比叡山に移し,常行三昧(じようぎようざんまい)を修したが,五会念仏は5種の音声からなる音楽的な称名念仏であった。常行三昧は不断念仏といわれ,各地に普及したが,比叡山の不断念仏は〈山の念仏〉として有名となった。これは8月11日から7日間,常行堂内で阿弥陀仏のまわりを行道(ぎようどう)しつつ,念仏とともに《阿弥陀経》を誦し,つねに想いを阿弥陀仏に懸けることによって,罪障を除滅しようとする法会であった。のちに不断念仏は命終のときに修されるようになり,臨終儀礼ともなった。平安中期に空也や源信が出るにおよんで,称名念仏はいっそう盛んとなった。空也は民間に念仏を広め,民間仏教史上に大きな足跡を残したが,その念仏は鎮魂呪術的な性格と機能をもったものとして民間に受容された。後世,一遍によって全国に広められた踊念仏の起源は空也念仏にあるとされるが,一遍の踊念仏にも死霊鎮送の性格がみられる。念仏は,源信らの二十五三昧結衆の起請文にもうかがわれるように,はやくから葬送や死者追善の儀礼と密接な関係をもっていたが,念仏が葬送・追善と結びつく一因は,念仏には罪障消除の功徳があると考えられたからである。《観無量寿経》は臨終時の称念,十念などは五十億劫,八十億劫の生死の罪を除滅すると説き,覚超は《修善講式》で〈弥陀如来ハ(略)カノ浄土ノ化主ナリ,御名ヲ唱奉レバ,念々ニ八十億劫ノ生死ノ罪ヲ滅シテ,カノ世界ニ生ゼシメ給フ〉と,称名に滅罪生善の功徳があることを述べている。

 平安時代には阿弥陀仏を仰いでやまない浄土教が興隆したが,それによって独立的な宗派が成立したのではなかった。しかし,鎌倉時代になると,この浄土教が宗派的に独立するにいたった。南無阿弥陀仏と弥陀の名号を唱えて,極楽浄土への往生を期する,いわば〈念仏宗〉ともいうべき新宗派があいついで出現した。法然が開いた浄土宗,その弟子親鸞が立てた浄土真宗,さらに一遍を祖とする時宗がそれである。法然は諸行を捨て念仏の一行を選んだが,彼はその念仏はすでに弥陀によって選択されていた本願の念仏であったとし,念仏に絶対の価値を認めた。そして〈声はこれ念なり,念はすなはちこれ声なることその意あきらけし〉(《選択(せんちやく)本願念仏集》)と念声是一の義をうち出し,念仏とは称念にほかならないとした。親鸞は専修(せんじゆ)念仏を〈他力宗旨〉(《歎異抄》)といい,他力の信心に生きることを勧め,一遍は平生を臨終と心得て念仏することを説き,名号絶対の立場をとった。
執筆者: 声明曲(しようみようきよく)の念仏には〈南無釈迦牟尼仏〉の釈迦念仏などもあるが,数は少なく,ほとんどが阿弥陀念仏である。1句ずつ旋律を変えながら〈南無阿弥陀仏〉を繰り返していくもので,1字1字長く引っぱって複雑な旋律を唱えるものから,ごく単純な節のものまで,各宗各派にわたって多数の曲がある。天台系の《甲念仏》《乙念仏》《八句念仏》《引声(いんぜい)念仏》,浄土系の《合(あい)念仏》《礼拝念仏》《笏(しやく)念仏》《白木念仏》,時宗の《別時念仏》《踊躍(ゆやく)念仏》《薄(すすき)念仏》,浄土真宗系の各種の《念仏和讃》に応ずる各種の念仏など,数えきれないほど多い。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「念仏」の意味・わかりやすい解説

念仏【ねんぶつ】

元来は仏を念ずることで法身(ほっしん)の念仏(仏の理法を念ずる),観念の念仏(仏の相好(そうごう)・功徳(くどく)を念ずる),称名(しょうみょう)念仏(仏の名を唱える)とがあるが,今日では称名と同義に用いる。浄土教の盛行に伴い,善導以後は称名念仏のみで浄土に往生できるとされた。日本では平安末期から専修(せんじゅ)念仏が重視されたが,のち真の念仏は一度だけでよいとする一念が強調された。親鸞は一念を行(ぎょう)と信に分け,信の一念を特に重視した。一方,念仏を曲調にのせた五会(ごえ)念仏は,引声(いんぜい)念仏として流行し,空也一遍踊念仏や歌念仏となった。
→関連項目エイサー称名念仏仏教平安仏教

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「念仏」の意味・わかりやすい解説

念仏
ねんぶつ

仏を念じること。 (1) 法身の念仏 理法としての仏を念じること。 (2) 観念の念仏 仏の功徳や仏の相を心に思い浮べてみること。 (3) 称名の念仏 (口称念仏〈くしょうねんぶつ〉)  仏の名を口に称えること。念仏には,だいたい以上の3つがあるが,歴史的には,(1) (2) が先で,(3) はのちのものであり,時代が下るにつれて (3) が盛んになった。この称名念仏は,(1) (2) に比べ,劣ったものとされていた。それを法然,親鸞が最もすぐれたものとしたのである。念仏の対象は,単に阿弥陀仏だけではない。他にもいろいろな仏があるからである。それが念仏といえば,阿弥陀仏を念じることを意味するようになったのは,阿弥陀仏の信仰が盛んになり,称名の念仏が流布したためである。やがて念仏の方法としては,称名念仏が最も重要視されるようになった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「念仏」の意味・わかりやすい解説

念仏
ねんぶつ

ふつう阿弥陀仏を念ずること。仏の実相を観ずる法身念仏(ほっしんねんぶつ)、仏の功徳や相好を思い浮かべる観想念仏(かんそうねんぶつ)、仏の名を口に称える称名念仏(しょうみょうねんぶつ)などがある。日本では当初は観想念仏が中心だったが、10世紀頃からしだいに称名念仏が盛んとなり、観想を否定した法然の登場などによって、念仏といえば南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)と称えることをさすようになった。浄土宗では専修(せんじゅ)念仏を、浄土真宗では弥陀の本願他力(たりき)への信を強調し、時宗では名号(みょうごう)至上主義を特色とする。他面、民俗社会では早くより、念仏には追善・滅罪や死霊鎮魂の機能があるとされ、臨終や葬送、追善の仏事、彼岸や盆の行事などに用いられた。また芸能化した民俗念仏が各地に残留している。

[伊藤唯真]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「念仏」の解説

念仏(ねんぶつ)

初期仏教では,仏の姿や,その功徳を心に思い浮かべることを意味していた。大乗仏教では,精神を集中した禅定(ぜんじょう)のなかで仏の姿を観ずる観想(かんそう)念仏が初め主流であったが,浄土教が広まると「南無阿弥陀仏」と六字の名号(みょうごう)をとなえる称名(しょうみょう)念仏も盛んに行われるようになった。特に中国念仏宗の大成者とされる善導(ぜんどう)(613~681)は称名念仏の優位を唱え,その流れが日本に伝えられて法然(ほうねん)の浄土宗,親鸞(しんらん)の浄土真宗へと展開した。また,一遍(いっぺん)は,踊りながら念仏をとなえる踊念仏(おどりねんぶつ)を発案し,時宗(じしゅう)を開いた。「念仏宗」とはこれらの総称である。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「念仏」の解説

念仏
ねんぶつ

仏を憶念(おくねん)することで仏道修行者が修すべき行法の一つ。念仏の仏を仏身とすれば観念・観仏となり,仏名とすれば称念となる。ゆえに念仏の対象となる仏身と念仏の仕方により歴史的には別々に展開するが,日本では浄土教の発展にともない阿弥陀仏を観念するか称念するかが問題になり,源信(げんしん)の「往生要集」では口称(くしょう)とともに観念を重んじ,やがて法然(ほうねん)の浄土宗の立宗以降は「南無阿弥陀仏」の六字の名号を口称することが主流になった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「念仏」の解説

念仏
ねんぶつ

仏を念ずる義,転じて仏の名号を唱えること
対象の仏は限定されないが,浄土教の発展以来,「南無阿弥陀仏」と唱えて阿弥陀仏を念ずることをさすようになった。

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世界大百科事典(旧版)内の念仏の言及

【往生拾因】より

…1103年(康和5)の成立と伝える。念仏の一行は10種の因あるがゆえに,一心に称名念仏すれば必ず往生を得ることを10項目にわたって述べ,顕密諸宗と比較して,念仏は行住坐臥を妨げず,極楽は道俗貴賤を選ばず,衆生の罪もひとしく救済されると説き,これを〈念仏宗〉と称した。本書は念仏者たちの間に大きな影響を与え,競って書写されたといわれる。…

【往生要集】より

…3巻。〈往生極楽〉に関する経論の要文を集め,〈往生の業(ごう)には念仏を本となす〉という思想を明らかにした平安時代の浄土教信仰を代表する著書。〈それ往生極楽の教行は,濁世末代の目足なり。…

【大無量寿経】より

…なかでも第18願では,〈十方世界の衆生が心を専一にして(至心)深く信じ(信楽)極楽に往生したいと願い(欲生),わずか10回でも心を起こす(十念)ならば,必ず極楽に往生できる〉と説いている。この〈十念〉が10回の念仏と解され,中国,日本における念仏による往生の思想の根拠として重視されるにいたった。【末木 文美士】。…

※「念仏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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