兄弟団(読み)きょうだいだん(その他表記)fraternitas[ラテン]
Bruderschaft[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「兄弟団」の意味・わかりやすい解説

兄弟団 (きょうだいだん)
fraternitas[ラテン]
Bruderschaft[ドイツ]

兄弟団とは中世ヨーロッパ都市において,人と人の結びつきの根底をなしていた組織であり,歴史的には古ゲルマン時代の宗教的供犠と結びついた宴会にさかのぼるとみる者もいるが,通常は中世都市内に成立した団体をさす。兄弟団は北ドイツではギルド,オーストリアなどではツェッヒェZecheとも呼ばれ,死後の救いを確保するための宗教的行事と祭り,現世の楽しみを享受するための宴会への参加のほか,構成員の相互扶助などのためにつくられた組織である。狭義の商人ギルド手工業ギルドはすべてこの兄弟団という範疇のなかに含まれる。宗教的行事としては構成員が死去したときの埋葬への参列,死者の霊の救いのための祈禱命日に行われる死者ミサ,さらに兄弟団の死者会員のためのミサなどがある。また現世における相互扶助の組織として病者看護が義務づけられ,祭礼のときには会員が行列に参加し,大宴会を開いて飲食を共にする。こうした行事のために構成員は一定の会費を支払い,構成員としての義務を怠った際に科される罰金として貨幣,ワイン,蠟などを支払った。兄弟団は特定の教会に専用の祭壇をもっており,それぞれの守護聖人をまつっていた。ときには小聖堂をもち,専属の祭壇づき司祭(アルタリストAltarist)をおいている兄弟団すらあった。このような兄弟団は聖俗を問わずあらゆる身分にみられ,聖職者の間ではカランド兄弟団が有名であり,ハイデルベルクではファルツの宮廷づき下僕の兄弟団もあった。放浪学生巡礼,ハンセン病患者の兄弟団などもあったが,最も一般的だったのは手工業職人の兄弟団である。職人の兄弟団ははじめ宗教的目的のための団体として結成されたが,やがて身分的結合となり,職人の世俗的権利を守るための職人組合へと発展してゆく。15世紀には職人の兄弟団は全盛期を迎えるが,宗教改革によって宗教的性格はうすれ,世俗的性格を強めていった。ギルド制度の解体とともに兄弟団も解体し,その社会福祉面での機能は国家に移されていった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「兄弟団」の意味・わかりやすい解説

兄弟団[古代ギリシア]
きょうだいだん[こだいギリシア]

「フラトリア」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の兄弟団の言及

【イタリア演劇】より


[ルネサンス以前]
 イタリア演劇の発生的形態は,12世紀から13世紀にかけて中部イタリアを中心に歌われたり,演じられたラウダlauda(神をたたえる歌)であるとされているが,それはかならずしも演劇ばかりではなく,オラトリオやオペラの起源でもある。このラウダの作者や演じ手は,主として〈兄弟団〉といわれる宗教組織に属する聖職者たちであった。ラウダの作者はほとんどが無名であったが,現在なお名を残している者もあり,その1人がヤコポーネ・ダ・トディJacopone da Todi(1236ころ‐1306)で,《マドンナの涙》や《天国に召される女》といったラウダを書き残している。…

【市】より

…中世ヨーロッパの都市市場においてはギルドとツンフトが結成され,仕入価格と小売価格,製品の質や量の管理を行っていた。ギルドやツンフトは古来の宗教的性格を加入儀礼や宴会,祭礼のなかに保持し,キリスト教化されたのちも,構成員の彼岸における死後の救いを媒介として結ばれた兄弟団を中核とするのであり,宴会を開き,あるいは参加する単位でもあった。対外的独占と対内的平等を原則とするギルド,ツンフトの存在は都市経済における価格形成市場の成立を阻害していたが,それにはキリスト教が互酬・再分配の関係に彼岸における救いを媒介として,新しい回路(無償の贈与)を設定したことが大きな契機となっていた。…

【ギルド】より

…この団体は交易のための旅の途中で一時的に結成されたものとみられ,北西ヨーロッパとイギリス並びにスカンジナビア諸国にみられる。この段階のギルドの特徴は兄弟団的結合にあり,その性格は以後のギルドにも伝えられてゆく。
[共同体としてのギルド]
 第2の類型は,11世紀から13世紀にかけて北フランス,ベルギー,オランダ,北ドイツの商業圏に登場する古商人ギルドalte Kaufmannsgildeである。…

【クラブ】より


[ドイツ]
 ドイツでは協会(フェラインVerein)と呼ばれる。中世には人的結合の重要な単位として兄弟団があったが,これは宗教と家と身分という三つの柱によって支えられていた。兄弟団に加入する単位は家であり,兄弟団は共同の祭壇をもち,同じ身分の者からなりたっていた。…

【慈善事業】より

… 中世ヨーロッパの各地に都市が成立すると,慈善事業に新しい局面が訪れる。都市内に成立した手工業者や商人の兄弟団(組合)がキリスト教の教義に基づいて盲人,啞者,病人などの世話をしたからであり,とくにベギン会やベガルド会などの在俗修道会はこの方面で大きな活動を行っていた。豊かな商人や都市貴族たちは私財を投じて病院をつくり,そのなかには1331年に成立してから1920年のインフレーションで閉鎖されるまで続いていたコンラート・グロスの聖霊病院(ニュルンベルク)のような例もある。…

【旅】より

…農民の場合あまり数は多くないが,市民の場合は巡礼行が一生のなかで大きな比重を占めていた。市民たちはたいてい兄弟団に加入していた。それはギルド・ツンフトである場合が多かったが,そのような職業とはまったく関係のない兄弟団もあり,たとえば病める旅人を看護し,死せる旅人を葬るための兄弟団などもあった。…

【フラトリア】より

…古代ギリシアの部族制度の中で,部族と氏族の中間に位置する集団で,胞族または兄弟団と訳されている。複数形ではフラトリアイphratriai(またはパトライpatrai,パトリアイpatriai)。…

【友愛】より

…そして,アッシジのフランチェスコにみられるように,自己犠牲と無償の愛,さらには貧しさそのものの精神的価値を強調するまでになり,慈善を通ずる人間の兄弟愛としての友愛は倫理的観念として広く浸透した。それとともに,このキリスト教の精神の下で,同じ職業のものが,互助のために拠金しあう義務をもった兄弟団fraternitasをつくり,これがギルドとも呼ばれて,産業革命にいたるまで,商工業の分野で大きな力をもった。このような同業組合やそれと同様な各種の兄弟団=友愛団体は,複雑な入会儀礼を生みつつとくに若者の社会生活の重要な因子となった。…

※「兄弟団」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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