先天性股関節脱臼とは、出生時または生後数カ月の間に、大腿骨の骨頭が
先天性股関節脱臼の原因は複数あります。出生前要因として
一方、出生後要因として窮屈なおむつ(巻きおしめ)、厚着、抱き方(横抱き)などがあげられています。これらは乳児の下肢を伸ばした状態で強制固定することにより、脱臼を発生させると推定されています。事実、日本では1970年代の予防活動により、発生頻度が2%から0.1~0.2%へと激減しました。
先天性股関節脱臼が放置されたり、治療がうまくいかない場合は、歩行の発達が遅れ、歩行開始後には
新生児・乳児においては、医師が視診で下肢の動き、皮膚のしわ、角度、長さの左右差、触診で股関節の開排(外側へ広げる)制限やクリック(骨頭が寛骨臼内に戻された時の音)を認めることにより診断され、乳児健診における重要なチェック項目になっています。
股関節脱臼の疑いが強い時は、整形外科専門医による経過観察が行われます。補助診断としてはX線検査や超音波検査が行われます。年長児では、
先天性股関節脱臼の治療法として、まず生後3~4カ月からリーメンビューゲルという装具を装用します(図30)。乳児期には約80%がリーメンビューゲルにより自然整復されます。整復率は亜脱臼ではきわめて高く、完全脱臼では半分程度に下がります。残る20%弱の症例では、乳児期後半に手による整復が、多くは全身麻酔下で行われます。それでも整復されなかった症例には、幼児期に手術(ルドルフ法など)が行われます。手による整復や手術のあとにはギプス固定が行われます。しかし術後に骨頭
先天性股関節脱臼が疑われたら、小児の整形外科専門医の診察を受け、おむつの当て方、抱き方、リーメンビューゲルの装用法などについて指導を受けます。
水口 雅
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
生まれつき股関節が脱臼(きゅう)しているものをいい、先天股脱と略称され、CDHと略記される。本来は股関節を構成する骨の発育欠陥、つまり先天性の形態異常としてみられる脱臼であり、おもに胚(はい)形質欠損によって子宮内で発生する脱臼をさすが、頻度は少ない。これに対して通常みられる定型的先天股脱は、関節包や靭帯(じんたい)の弛緩(しかん)、子宮内の胎位異常による機械的因子や出生後の育児環境因子など後天的要因によるものと考えられ、出生後に骨頭が寛骨臼から脱臼する。放置すれば跛行(はこう)、歩行障害を生ずる。女子に多く、男子の5、6倍発生する。
文献的には古代ギリシア時代から知られている疾患であり、かつては日本でも非常に多く、ローレンツ肢位とよばれる整復法とギプス固定、およびマッサージなどの後療法が行われていた。しかし、新生児および乳児検診によって早期に発見されるようになり、早期治療が普及して、1960年(昭和35)ころからは、リーメンビューゲル法とよばれる機能的療法が行われるようになり、また育児上の先天性股関節脱臼の予防法などの注意の喚起によって歩行障害を残すような患者は非常に少なくなった。
[永井 隆]
1957年にチェコスロバキアのパブリックA. Pavlikがドイツ語で発表した先天股脱の機能的療法で、整形外科医の鈴木良平(1922― )により日本へ紹介された。リーメンビューゲルRiemenbügelは「あぶみバンド」とも訳され、肩からつるバンドと鐙(あぶみ)状に足をつるバンドからなる治療装具で、患児の両股関節を90度前後に屈曲した肢位に装着する。患児が下肢を伸展しようとすると、足が体の側面からつられているので、乗馬の際に鐙に足をふんばると股関節が外転するのと同じように、大腿(だいたい)を外転させる力が加わり、これが股関節の整復に役だつことになる。装着後1、2週以内にその多くが整復され、その後徐々にバンドを緩めて3~6か月で除去する。
なお、この装具によっても自然整復されない場合は、徒手整復や観血的整復が行われる。
[永井 隆]
先天股脱の予防法として重視されているもので、新生児に対し、子宮内にいたときの屈曲した肢位を他動的に急激に伸展させないよう心がけ、時間をかけて自然に脚を伸ばすことができるように注意するだけで脱臼の発生頻度が大幅に減少するといわれている。すなわち、おむつは股間だけに当て、脚を伸ばして包むようなことはしない。おむつカバーは下腹部を幅2センチメートルほどのベルトで留め、これに股間部の布を留めるようにする。肌着の下肢のところを締めるような紐(ひも)などは除去する。ズボンや服は股間部を十分に広くする。抱く場合は、下腹部や腰に向かい合わせに子供を抱き、股関節を90度以上屈曲して、頭部を自分の上腕部にもたせかけるようにする。授乳をする場合もこの抱き方で行う。要するに、股関節を屈曲外転位(股(また)を大きく開いた開排位)にするよう心がけるわけで、生まれてすぐから全児に対して実施することが望まれる。
[永井 隆]
次に重要なことは、生後1週間以内に行われる新生児検診と乳児検診である。この検診では、肢位、開排制限、脚長差、クリックサインなどがチェックされる。クリックclickとは、開排角の増減に応じて骨頭が寛骨臼内に整復されたり脱臼したりするときにおこる擬音語で、この開排位での雑音触知をクリックサインという。これを誘発するつもりで多少力を加えて行うことにより、関節弛緩性の新生児脱臼の診断に役だつが、強くやりすぎると股関節に緩みを新たにつくる危険がある。X線検査は、新生児には普通行われない。
この検診で先天股脱が発見されると、まずリーメンビューゲル法が行われる。これにより治りやすい条件を与えるわけで、事実、大部分が整復されて自然治癒する。それでも10~15%くらいは整復されないことがあり、前述のように徒手整復や、場合によっては手術による整復が行われるが、リーメンビューゲル法を実施した患児の予後は比較的よい。
[永井 隆]
出生時または生後まもなく大腿骨頭が関節包に包まれたまま寛骨臼外に脱出(関節包内脱臼)する疾患で,外傷による脱臼によって関節包が破れて脱臼するものとは病態が異なる。CDHと略記し,先股脱と略称する。治療しないでいると跛行,歩行障害を生ずる。以前は日本には非常に多く,肢体不自由の大きな原因となり,その対策が社会的に大きな問題とされたが,早期発見,早期治療に対する保健関係者と整形外科医の努力と,早期治療に適した治療法の開発により,障害を残す患者はたいへん少なくなってきた。
女子に多く,男子の5~9倍発生する。原因はまだ不明の点が多いが,関節包が弛緩していたり,寛骨臼が浅く臼蓋の形が骨頭を収めるのに不十分であるなど,脱臼を起こしやすい先天性,遺伝性の素因のうえに,後天性の因子が加わって発生するものと考えられている。後天性の因子としては,屈曲位をとる乳児の股関節を無理に伸展位にすることが大きな原因と考えられ,乳児の下肢を自由にさせておく南方の民族には脱臼が少なく,下肢を厚い衣類で包む北方の民族に脱臼が多いのは,このような後天性の因子の差で説明される。したがって乳児のおむつのあて方は脱臼予防にたいせつで,下肢を伸ばして巻き込むことのないよう,股関節を屈曲外転位すなわち開排位(また(股)を大きく開いた形)にするようにおむつをあてるのがよい方法である。脱臼のなかには,種々の先天性の骨の異形成の部分症状として出生時に高度の脱臼の発生しているものがあり,奇形性脱臼といわれるが,一般の脱臼関節では,新生児期には骨頭は容易に寛骨臼から出たり入ったりする。しかし脱臼したまま放置されると寛骨臼や大腿骨頭の形が変化し,関節包が骨頭に癒着したりして,骨頭を臼内に整復することが困難となる。
新生児期には外から見える所見に乏しく,股関節を屈曲外転位とし,大腿骨に力を加えて,脱臼または整復する操作(オルトラニのテストOrtolani's test)で脱臼素因を診断する。乳児期には,脱臼側股関節に,またがよく開けない開排制限があり,骨頭を外側に触れ,患肢が短く,大腿のしわが非対称になるなどの症状がある。歩行開始後には,患肢で起立した際に健側の骨盤が下がるトレンデレンブルク徴候Trendelenburg's signがあり,歩行時には患側に上体を傾けるので,跛行を生ずる。
乳児期にはリーメンビューゲルRiemenbügel(ドイツ語で革ひもの鐙(あぶみ)の意)といって,肩から下肢屈曲位で足をつり上げておく装具を使用するのが標準的治療法である。患児が股関節の屈曲外転位でひざを伸展する力が整復力になると思われ,この装具によって脱臼が整復されるものが多い。整復されないものでは,麻酔下の整復ギプス固定や,観血的整復術を行う。治療しなかったり治療が適切でなかったものでは,20歳代から30歳代の早期に変形性股関節症が発生し,痛みのために歩行困難となることがあるので,早期に適切な治療を行うことがたいせつである。
→脱臼
執筆者:吉川 靖三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…昭和中期,第2次大戦後に普及したパンツ形のあて方が多い。しかし股間にだけ布をあて,腰まわりをくるまない方法(股おむつ)が,先天性股関節脱臼の生後成立を予防するためにすすめられ普及しつつある。乳児の体をおおう部分が少なく,下肢の運動を制限しないのでよい方法である。…
※「先天性股関節脱臼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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