変形性股関節症(読み)ヘンケイセイコカンセツショウ(英語表記)Osteoarthritis of the hip

デジタル大辞泉 「変形性股関節症」の意味・読み・例文・類語

へんけいせい‐こかんせつしょう〔‐コクワンセツシヤウ〕【変形性股関節症】

股関節の軟骨が摩耗・変形し、痛み・運動障害をきたす疾患。日本では、先天性股関節脱臼臼蓋形成不全、外傷などが原因となって、40~50歳の女性に発症することが多い。運動療法薬物療法のほかに、自分の骨を移植する骨切り術や、人工股関節手術などの治療法がある。

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六訂版 家庭医学大全科 「変形性股関節症」の解説

変形性股関節症
へんけいせいこかんせつしょう
Osteoarthritis of the hip
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 長年の使用や繰り返される負担、けがなどによって、関節の軟骨がすり減ったり、骨の変形が生じたりする病気です。

原因は何か

 原因がはっきりしない加齢に伴う一次性の変形性股関節症と、何らかの原因で生じる二次性の変形性股関節症があります。80%以上が二次性で、原因には、生まれつき股関節の骨盤側の形が小さい臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)発育性股関節脱臼(はついくせいこかんせつだっきゅう)大腿骨頭(だいたいこつとう)すべり症ペルテス病といった小児の股関節の病気、骨折や脱臼などの外傷、痛風(つうふう)化膿性関節炎(かのうせいかんせつえん)などの炎症、その他の原因によって生じるものがあります。

 臼蓋形成不全や発育性股関節脱臼などの小児期の股関節の病気が女性で多いため、変形性股関節症も女性に多く見られる病気です。年齢とともに発生が多くなります。

症状の現れ方

 変形性股関節症は変形の程度によって初期、進行期、末期に分けられます。

 初期には脚の付け根や臀部(でんぶ)、膝の上部のこわばりや重い感じがあり、歩き始めや長時間の歩行、階段の昇降で痛みが起こります。腰からのいわゆる坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)変形性膝関節症に症状が似ている場合があります。初期でも炎症が強く関節液がたまっていたり、関節(しん)が損傷されていたりする場合には比較的に強い痛みがあります。

 変形が進行し進行期から末期になるにつれ、動きが制限されて痛みも強くなり、筋力も低下してきます。長距離の歩行や階段の昇降、しゃがみ立ちが困難になるなど徐々に日常生活が制限されてきます。

検査と診断

 診断は歩行状態、痛みの部位、動きなどの診察とX線検査で行います。X線検査では、関節軟骨のすり減りや骨の変化、関節周囲の骨の増殖(骨棘(こっきょく))の程度、関節の適合性を検査します。

 関節リウマチやほかの膠原病との鑑別のために、血液検査を行う場合もあります。骨の変化、関節液の貯留や関節唇損傷の確認のため、CTやMRIによる検査を行う場合もあります。

治療の方法

①保存的治療

 まずは、痛みに対して体重のコントロールや安静、杖の使用、温熱療法などの理学療法、湿布、塗り薬、痛み止め内服薬などを用いた保存的治療を行います。股関節周囲の筋力トレーニングも関節の安定性を高めるのに有効です。

②手術

 股関節の重度の変形があり、日常生活に支障がある場合には、人工股関節手術が行われます。最近は、皮膚や筋肉の切開を最小限にする最少侵襲手術(MIS)や、骨の切除を最小限にする表面置換型人工関節といった方法も取り入れられています。人工股関節は満足度の高い手術ですが、人工関節の感染や、とくに活動性が高く若い患者さんでは人工関節のゆるみや破損が問題になる場合があります。

 このため、比較的若い患者さんでは、関節の機能の改善と関節を長持ちさせる目的で関節形成術(骨切り手術)が行われます。関節形成術には骨盤の形を変える手術、大腿骨の形を変える手術、骨盤と大腿骨の形を同時に変える組み合わせ手術があり、変形の程度や関節の形を考慮して手術方法を選択します。

 ほかの手術方法としては、機能的な形で関節を固定する関節固定術や股関節周囲の筋肉の緊張をゆるめる筋解離術(きんかいりじゅつ)などがあります。

病気に気づいたらどうする

 脚の付け根に痛みがあり、繰り返す場合には変形性股関節症の可能性があります。とくに小児期に股関節の治療を受けた人や、関節の形は家族で似ることが多いため股関節の治療を以前受けた家族がいる人は要注意です。

 変形性股関節症には進行期という時期があり、文字どおり比較的早く変形が進行する場合があります。早い時期であれば関節形成術といった予防的な治療も可能ですので、早めの整形外科受診をすすめます。

尾崎 誠


変形性股関節症
へんけいせいこかんせつしょう
Osteoarthritis of the hip
(お年寄りの病気)

 多くの場合、先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)(赤ちゃんの時の股関節脱臼)や臼蓋(きゅうがい)形成不全症からの二次性変形性股関節症です。臼蓋形成不全症は、股関節の骨盤側の受け手である臼蓋が浅い状態で、関節の一部分に荷重がかかりやすく、軟骨がすり減り、関節症が進みやすくなります。高齢者の場合、とくにこのような背景がなく、加齢とともに徐々に進行する一次性変形性股関節症も増えています。

症状の現れ方

 主に立位、歩行時の股関節痛と、股関節の可動域制限です。安静時の痛みは強くありません。可動域制限は、脚がまっすぐ伸びなくなって、広がりにくくなります。また、軟骨とともに骨もすり減ってくると脚の長さが短くなり、歩きにくくなってきます。

治療とケアのポイント

 治療は変形性膝関節症とほぼ同様で、理学療法、消炎鎮痛薬などの内服および外用、それに手術です。減量は重要で、減量によって痛みを軽くして進行を遅らせることができます。また、可動域制限が進まないように、脚の付け根をまっすぐ伸ばすこと、外側に広げるようにすることが大切です。筋力訓練も症状をやわらげ、進行を抑えることができます。主に中殿筋(ちゅうでんきん)腸腰筋(ちょうようきん)を鍛えます。中殿筋は、股関節を外に広げるための筋肉ですが、同時に片脚でバランスよく立つために必須で、歩行のためにも重要です。この筋肉を鍛えると股関節の安定性が増します。鍛え方は、横を向いて寝た状態で、片脚を伸ばしたまま横に広げて、足先を10㎝程度浮かしたところで5~10秒間保持します。これを10~20回続けます。また腸腰筋も大切で、これはあお向けに寝た状態で、片脚を伸ばしたままで挙上します。かかとが床から10㎝程度離れたところで止めて、5~10秒間。これを10~20回行います。

 関節変形が進行して、短い距離しか歩けなくなり生活に支障を来すようになると、手術を考える時期です。手術には骨切り術と人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)があります。膝と同様に人工股関節置換術も、長期成績が良好でリハビリテーションの進みが早いといった利点から、手術件数が年々増えています。ただし、手術した関節への細菌感染、静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)、関節の脱臼などの合併症も低い確率ですが起こることがあるので、担当の医師とよく相談して決めましょう。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「変形性股関節症」の解説

へんけいせいこかんせつしょう【変形性股関節症 Osteoarthritis of the Hip Joint】

[どんな病気か]
 股関節の軟骨がすり減ったり、関節の形が変わっていく病気です。
 日本では、先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)や臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)(股関節の屋根となる臼蓋のかぶり方が浅い状態)があって、治療しても、それが治っていない人に多くみられます。
 そのほか、外傷や炎症、股関節の血行が悪くなった後でもおこります。
[症状]
 症状は、おもに運動時の痛みです。痛みの程度は、股関節の変形の程度や、軟骨のすり減りぐあいによってちがってきます。
 変形の進行度によって、前股関節症、初期股関節症、進行期股関節症、末期股関節症の4期に分けられます。
 前股関節症は、臼蓋の形成不全はありますが、軟骨は十分残っている状態です。長く立っていたり歩行時に、股部に重(おも)だるい感じや軽い痛みがありますが、休むと消えてしまう程度です。
 初期股関節症では、関節の間の軟骨が少しすり減って、関節のすき間(関節腔(かんせつくう))も狭くなってきます。股関節の動きも少し悪くなり、痛みも強くなってきますが、まだ、休めば痛みはなくなります。
 進行期股関節症、末期股関節症になると、痛みや股関節の動きの制限は、個人差はあるものの、ひどくなります。長く立っていたり、歩いた後の痛みが、休んでも続くようになります。
 進行期のX線写真を見ると、関節腔(かんせつくう)も、よいほうの関節に比べ、半分ぐらいまで狭くなっています。
 末期では、軟骨はまったくなくなり、骨の変形もひどくなってきます。
 したがって、前股関節症の時期から年に1~2回は診察を受け、病気の進行状況を知っておくことが必要です。
 病気の進行状況によって治療法もちがってきますので、整形外科医に十分相談する必要があります。
[治療]
 基本的には、股関節にかかる負担を少なくすることです。したがって、体重の減量、スポーツなどの制限が必要になります。また、股関節の周囲の筋肉の強化も必要です。
 歩くときにからだが大きく左右に揺れる人は、つえの使用を勧めます。しかし、経過をみている間に痛みが強くなってくる場合は、手術を考えなければならなくなります。このときにたいせつなことは、その人の年齢、性別、職業、社会的環境などによって、治療方針がちがってくる点です。
 たとえば、はたらき盛りの男性で、重労働の仕事をしている人では、片側の股関節が障害されている場合、関節の動きを止めてしまう関節固定術が適応となります。
 50~60歳以上で、股関節の変形が強く、重労働をしない人では、人工関節に換える手術が適応となります。
 40歳以下の若い人で、臼蓋形成不全があれば、股関節の大腿骨側の骨を切り曲げて安定させるか、臼蓋形成術が適応となります。
 臼蓋形成術は、臼蓋に骨を移植したり、臼蓋自体を移動させて、股関節のかぶりを大きくしたりする手術です。
 どの手術を受けた場合でも、手術後は日常生活に注意し、股関節に負担がかからないようにする必要があります。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「変形性股関節症」の意味・わかりやすい解説

変形性股関節症
へんけいせいこかんせつしょう

変形性関節症

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