関節軟骨の老化,または変性が背景にあって,これに内分泌異常,代謝障害,肥満,外傷などの多くの因子が加わって起こる局所性の関節の病気。関節面の軟骨が破壊されて軟骨下の骨が露出した部位では,骨の硬化が起こる。しかし,その表面に繊維軟骨が現れてとげ(棘)や堤防のように新しい骨が形成される。その結果関節が変形するのであるが,これは生体の修復現象である。
原因が不明な一次性変形性関節症と,明らかに原因があって起こる二次性変形性関節症とがある。後者の場合,それまでに関節軟骨の損傷や障害を起こすような先天性関節疾患,関節外傷,関節炎,代謝病,腫瘍によって,わずかでも変形を残していると,軟骨組織の退行変性の始まる中年以降にこの病気の症状が現れる。現在では,軟骨組織の構成要素である糖タンパク質,膠原(こうげん)繊維の生化学的変化と生体力学的負荷が要因として考えられている。したがって,罹患しやすい部位は,股関節,膝関節,頸椎,腰椎のように関節軟骨に体重などの負荷の加わる部位である。
40~50歳の中年以降に発病する。今までなんらかの関節病にかかって障害の残っている人(二次性変形性関節症),肥満で体重の重い人,つねに関節を酷使する職業やスポーツをする人,両側の関節病にかかった人では,もっと早い年齢で現れる。日本人では,変形性腰椎症についで変形性膝関節症,変形性股関節症,変形性頸椎症が多い。そのうち変形性股関節症の原因の90%以上は先天性股関節脱臼による二次性関節症で,ほとんどが女性である。おもな症状は痛みと運動障害である。二次的な滑膜炎あるいは関節炎を合併しなければ自発痛はなく,運動時痛で,安静にすると消える。ことに運動の初めに強くて,運動の経過とともに軽減する。しかし,関節の破壊が進み変形が強くなると,自発痛や筋肉の拘縮が現れて運動障害が起こってくる。初めは,このような症状は可逆性でなおりやすいが,しだいに進行性となって変形や症状は固定したままとなる。ことに股関節で痛みが,続いて拘縮が起こると起立,歩行が困難となり,日常生活動作が制限されやすい。
膝関節では関節水腫が起こると,変形も進み安定性が悪くなるため,階段の昇降,正座がしにくくなるが,股関節ほどの障害とはならない。
X線検査で骨・軟骨の破壊と増殖の変化の程度を調べる。軟骨の破壊の程度は,関節裂隙の狭小化と骨硬化と骨囊腫でわかる。骨棘(こつきよく)と骨堤は骨の増殖変化の結果である。また,これらのほか,立位,屈曲,伸展などのいろいろの肢位で機能撮影を行えば,関節構成体間の非適合,荷重軸の乱れが認められる。
治療にあたっては,変形性関節症が局所性で退行変性疾患である一方,同時に修復反応を呈するため,症状は可逆的であり,したがって保存的治療が原則となる。
保存的治療では,まず第1に,局所を安静にして,関節を乱用せず庇護する。その方法として,松葉づえを使用したり,装具,コルセット,ギプス包帯を用いて関節の負荷を軽減する。痛みや緊張には,筋力増強訓練,温熱療法(パラフィン浴,温泉浴,赤外線灯,ホットパッキング)を行う。痛みが強く,自発痛があって拘縮があれば,鎮痛・消炎剤の内服と,副腎皮質ホルモン剤の局所または関節腔内注射を1週間に1~2回の間隔で行う。副作用のため連続注射は避けるべきである。
前述のように保存的療法が原則だが,関節の修復には手術的治療も行われる。手術的治療法には,直接に関節に対する手術と関節外からの手術がある。手術法は,年齢,性,職業,日常生活,罹患関節の部位,臨床症状,X線検査所見から選択される。矯正骨切り術は,関節構成体相互間の適合性を改善して生体力学的に荷重軸を変えて,荷重面を拡大し,局部組織の負担を軽くし修復するもので,股関節,膝関節で最もよく行われる。関節再建手術は,変形が高度で,強い運動障害のあるものに行われる。人工素材を用いた全人工関節置換術は60歳以上にしばしば行われる。この手術により,痛みはなくなり,運動機能も改善され,正常の起立や歩行ができる。しかし,手術後には,無暴な使用をさけるため,人工関節に応じた生活をせねばならない。一側の変形性股関節症で,壮年期の男子で立位で重労働を続ける人では,関節固定術が行われる。その他の四肢の変形性関節症に固定術を行うことは,最近ではほとんどなくなった。
執筆者:広畑 和志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
関節面を平滑にする関節軟骨が退行性変化をおこして弾力性を失い、露出した骨面が硬くなるとともに特有な骨新生(骨棘(こっきょく))がみられ、関節が変形して機能が悪くなる非炎症性の疾患で、老化をはじめ、関節形成異常、既往関節疾患、外傷、肥満、ホルモン異常、代謝障害などが要因となる。日常的に負荷が加わりやすい膝(しつ)関節と股(こ)関節に多くみられ、それぞれ変形性膝関節症、変形性股関節症とよばれる。発生頻度は膝関節のほうが高く、重症例は股関節に多くみられる。
原因的に一次性と二次性に分けられる。一次性は特発性、原発性ともよばれ、原因不明で、老化の部分現象として初老期に多くみられ、40~50歳の中年以降に発症する。二次性は原因の明らかなもので、関節外傷、先天的関節形成異常、関節炎、彎曲(わんきょく)した下肢などのほか、肥満による過度荷重によって関節軟骨の損傷や障害をおこしているものにみられ、若年者にも発症することがある。
症状は関節運動の制限と疼痛(とうつう)で、徐々に進行し、立ち居ふるまいの瞬間に痛みを感じたり、階段の昇降が苦痛になって気づくことが多く、動いているうちに痛みは軽減する。関節運動時に軋音(あつおん)を聞くことが多く、過度の使用で痛みが強くなることがある。おもに保存的治療が行われ、運動痛や関節液の貯留などの症状をなくし、進行を遅らせる。局所の安静をはじめ、理学療法として温熱療法や筋力低下を防ぐ運動療法を行い、薬物療法として消炎鎮痛剤の内服やステロイド剤の関節内注射などを行う。難治例に対する手術としては関節形成術、関節固定術、矯正骨切り術、人工関節置換術などが行われる。
[永井 隆]
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