脱臼
だっきゅう
dislocation
関節を構成する骨頭と関節窩(か)が正常な生理的位置関係にないものをいう。原因により先天性と後天性に大別され、後天性脱臼には外傷性脱臼と病的脱臼が含まれる。一般に脱臼という場合は、外傷性脱臼をさしており、骨折を伴うものもある。
[永井 隆]
関節を構成する骨の発育欠陥によるもので、一次性(内因性)と二次性(外因性)に分けられる。代表的なものが先天性股(こ)関節脱臼である。
[永井 隆]
外力によって関節が生理的運動範囲(関節可動域)以上の動きを強制され、関節端の一方が関節包を破って関節面の正常な相対関係を失ったものをいう。関節面の一部が互いにまだ接触しているものを不全脱臼または亜脱臼といい、関節面がまったく接触していないものを完全脱臼とよぶ。また、初回の脱臼整復後に軽微な外力で容易に脱臼を繰り返すものが習慣性脱臼で、自己の意思で脱臼をおこしたり整復もできる随意性脱臼も含む。
脱臼頻度は、骨折に比べるとはるかに低い。全脱臼の約85%が上肢にみられ、また約半数は肩関節脱臼である。肩関節は関節可動域が広く、しかも上腕骨骨頭の大きさに比べ、関節窩が非常に小さくて浅いために脱臼しやすく、習慣性脱臼もおこしやすい。
なお、近年は交通事故による股関節脱臼が増えている。これは、衝突事故でドライバーが膝(しつ)関節部をダッシュボード(計器盤)に激しくぶつけ、大腿(だいたい)骨骨頭が寛骨臼後縁に衝撃を与えて寛骨臼を骨折し、骨頭が後方に脱臼する股関節脱臼である。
[永井 隆]
関節炎をはじめ関節の種々な病変によって骨の破壊、関節包の拡張や弛緩(しかん)、関節を固定する靭帯(じんたい)や筋の弛緩などをきたしたり、あるいは麻痺(まひ)などのため二次的に脱臼するものをいい、それぞれ破壊性脱臼、麻痺性脱臼とよばれる。
[永井 隆]
受傷後できるだけ早く全身麻酔下で非観血的に整復(徒手整復)する。一般には整復後断裂した関節包が癒合修復される約3週間を目安に、固定して安静を保ち、その後なるべく早くから機能訓練を始める。また、腱(けん)や筋肉、関節包、骨折片などが介在したり、脱臼したまま放置されていた陳旧例で瘢痕(はんこん)や癒着を生じて徒手整復が困難な場合には、手術による観血的整復が行われる。早期に整復して合併損傷も少ない場合の機能的予後は良好であるが、開放性損傷があったり陳旧例の場合は関節拘縮をおこし、運動制限が残ることがある。肩関節脱臼では習慣性脱臼をきたさないように留意することが重要である。
[永井 隆]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
だっきゅう【脱臼 Dislocation】
[どんな病気か]
ねんざ同様、関節が過伸展(かしんてん)、過屈曲(かくっきょく)された結果、関節を構成する骨が外れ、もとの正常な状態にもどらない状態を脱臼といいます。
完全に関節が外れたものを完全脱臼(かんぜんだっきゅう)、位置がずれた程度のものなら亜脱臼(あだっきゅう)といいます。
いずれも、関節を支える靱帯(じんたい)などの組織に損傷がおこっています。
[症状]
関節が異常な形となって動かなくなり、痛みます。
また、関節周辺が腫(は)れてきます。
脱臼した関節を含む四肢(しし)の力が抜けたり、痛みで動かせなくなることもあります。
亜脱臼の場合は変形が少ないため、ねんざとの鑑別がむずかしくなります。
■肩関節脱臼(かたかんせつだっきゅう)(Dislocation of Shoulder)
関節のなかで、可動範囲がいちばん広い肩関節(かたかんせつ)は、脱臼がおこりやすい関節です。
ほとんどの脱臼は、上腕骨骨頭(じょうわんこつこっとう)が前の方に外れる前方脱臼ですが、外力の方向により後方脱臼をおこすこともあります。
■肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)(Dislocation of Scapulo-Claviclar Joint)
鎖骨のいちばん外側である肩峰(けんぽう)のところが脱臼し、段がついたようにみえます。
[治療]
関節を構成する骨を本来の位置関係にもどし(整復)、損傷を受けた関節周辺の組織が修復するまで固定します。
脱臼が疑われた場合は、その関節が動かないように固定して冷やし、早めに整形外科を受診してください。
治療は、脱臼の整復・固定と鎮痛薬や腫脹緩和剤(しゅちょうかんわざい)による薬物治療が主です。程度によっては手術も行なわれます。
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脱臼【だっきゅう】
関節を構成する2ないし数個の骨の位置的関係が異常にずれること。強い外力によって靭帯(じんたい)や関節包が破れる外傷性脱臼,関節炎などの病気により関節包内に化膿が起こったり,関節骨が破壊されたり,靭帯や関節包がゆるんだりして起こる病的脱臼,先天的に関節骨の発育が悪いために起こる先天性脱臼の3種に大別される。一般に関節のはれと痛み,変形,運動制限を伴う。最も多いのは外傷性脱臼で,同時に骨折の起こることが多く,顎関節や肩関節では習慣性になることもある。治療は早期の整復,ギプス固定,病的脱臼では原因疾患の治療,外傷性脱臼で骨折,血管や神経の損傷を伴う場合はその治療も行う。
→関連項目捻挫
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脱臼
だっきゅう
dislocation
関節を構成する関節頭と関節窩の関節面が正常な可動域を越えて接続状態を失うことをいう。その程度によって完全脱臼と不完全脱臼 (亜脱臼) ,原因によって外傷性脱臼,先天性脱臼,病的脱臼その他に分けられる。外傷性脱臼が最も多い。捻挫は関節面の相互関係が正常に保たれている場合をいう。
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だっ‐きゅう ‥キウ【脱臼】
〘名〙 骨の関節を構成する骨頭が、
関節腔から外れること。痛みを伴う。
※形影夜話(1810)上「此部の筋は如何にと
詳に知らねば、金創・折傷・脱臼も療しがたし」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
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だっきゅう【脱臼 dislocation】
脱臼は外傷性,先天性,病的脱臼などに区別されるが,関節包や靱帯(じんたい)などの損傷・弛緩により関節面の相対関係が乱れ,関節面の相互にずれが生じた場合をいう。骨頭(関節頭)とこれを受け入れる関節窩(か)との適合が完全に失われた場合を完全脱臼,部分的に両面の一部が接触しているときは亜脱臼subluxationと呼ばれる。先天性脱臼は生まれつき脱臼している場合で,主として股関節にみられる(先天性股関節脱臼)が,まれにはひざやひじの関節にもみられる。
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世界大百科事典内の脱臼の言及
【転位】より
…結晶学用語。ディスロケーションともいう。格子欠陥の一種で,原子の配列あるいは結晶格子の乱れが一つの線に沿って生じているものをいう。結晶固体に外から引張りや圧縮などの力を加えると,ある程度以上大きい力に対しては,変形を起こしたまま元に戻らない(塑性変形)。変形が元に戻らないのは,原子のつなぎかえが起きることによるものであるが,これにあずかるのが転位である。転位の概念の萌芽は1900年ころまでさかのぼることができるが,塑性変形を担うものとしてその重要性が認識され,近代的な形で導入されたのは,1934年イギリスのテーラーGeoffrey Ingram Taylorらの研究によってである。…
【関節】より
…このことは肩関節の運動性がきわめて大きいことに関連しているが。その反面,脱臼をおこしやすい欠点がある。関節包の外面にはとくにこれを補強する靱帯はないが,関節の運動に関係した筋肉が関節包を補強している。…
※「脱臼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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