翻訳|dislocation
脱臼は外傷性,先天性,病的脱臼などに区別されるが,関節包や靱帯(じんたい)などの損傷・弛緩により関節面の相対関係が乱れ,関節面の相互にずれが生じた場合をいう。骨頭(関節頭)とこれを受け入れる関節窩(か)との適合が完全に失われた場合を完全脱臼,部分的に両面の一部が接触しているときは亜脱臼subluxationと呼ばれる。先天性脱臼は生まれつき脱臼している場合で,主として股関節にみられる(先天性股関節脱臼)が,まれにはひざやひじの関節にもみられる。病的脱臼とは種々の病気の結果,関節部位に変形や損傷を生じて脱臼の起こったもので,その原因となる病気によって脱臼の様相もまた多種多様である。以下,外傷性脱臼について述べるが,外傷性の場合は先天性,病的脱臼と異なり,関節包をふくむ関節支持組織に必ず断裂があり,その断裂した裂隙から骨頭が関節包外に逸脱する。脱臼の場合,腫張・変形・疼痛・機能障害など骨折と同じような症状が現れるが,患肢はそれぞれの脱臼に特有な肢位をとり,この肢位から患肢を動かそうとすると弾力的な抵抗がみられ,わずかに動くが,力をぬくとまた元の肢位に戻ってしまう現象がみられる。この現象は外傷性脱臼に特有のもので,ばね様固定と呼ばれる。また関節端の位置がずれているのが認められることもある。外傷の機転やこれらの症状から診断は一般的に容易であるが,関節に近いところの骨折は一見脱臼とみあやまることがある。脱臼とともに骨折を合併する場合は脱臼骨折と呼ばれる。脱臼位の詳細な所見や骨折合併の有無などの判定にはX線検査が重要である。
外傷性脱臼の治療は骨折のそれと同じく,整復・固定・機能訓練が本筋である。ただし脱臼の整復とは,ぬけ出した骨頭を関節包裂傷部を通して元の位置におさめることで,骨折時の整復とは多少趣を異にしている。脱臼発生機転の逆の途をたどり整復するわけであるが,外傷性脱臼の整復はなるべく早く行わなければならない。その理由として,脱臼したままでは疼痛や機能障害などの症状が強いこと,時間の経過とともにしだいに整復しにくくなること,整復がおくれると機能障害を残しやすいことなどであり,脱臼の整復は骨折に比べはるかに緊急を要する。麻酔をかけて疼痛をとり,筋肉を弛緩した状態で整復操作を行えば,たいていの場合容易に整復できる。しかし整復路に腱,筋肉,関節包,骨折片などが介在して整復不能の場合があったり,また関節包の裂隙部で骨頭が締めつけられて整復がなされないことなどがあり,これらを整復障害と呼んでいる。整復障害のあるものや,脱臼がそのまま放置され,損傷軟部組織に瘢痕(はんこん)が形成されてもはや徒手整復が不可能な場合には,手術的な方法で整復をはかる。整復がえられた後は,できるだけ早期に関節運動を開始し,拘縮の発生や筋肉の萎縮を予防すべきである。一般には1週間前後の安静後,徐々に自動運動練習を開始する。断裂した関節包が繊維性に癒合する3週間前後から,すべての方向の運動練習を積極的に開始する。整復が早期に行われ,合併損傷が少ない外傷性脱臼の機能的予後は良好であるが,関節の開放性損傷や陳旧性のものは関節拘縮をのこし,運動制限をみる。また繰り返し脱臼を起こすと習慣性脱臼へ移行することもあり,注意を要する。
軽度な外力により脱臼が頻発する状態をいい,肩関節などでみられる。外傷性脱臼に続発するものが大部分で,最初の脱臼後の固定期間が短いと習慣性になりやすい。またみずからの意志で脱臼させることができる場合もあり,これを随意性脱臼という。習慣性脱臼では,関節構成に変化をきたしており,脱臼阻止構造が欠落している。たとえば肩関節の場合には関節包の弛緩,関節窩縁の欠損,骨頭の部分欠損などがみられ,ときには非常に不安定で,夜間睡眠中の寝返り動作や,洋服着脱時などのささいな外力が加わった際にも,脱臼が生ずることもある。
→関節 →骨折
執筆者:東 博彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
関節を構成する骨頭と関節窩(か)が正常な生理的位置関係にないものをいう。原因により先天性と後天性に大別され、後天性脱臼には外傷性脱臼と病的脱臼が含まれる。一般に脱臼という場合は、外傷性脱臼をさしており、骨折を伴うものもある。
[永井 隆]
関節を構成する骨の発育欠陥によるもので、一次性(内因性)と二次性(外因性)に分けられる。代表的なものが先天性股(こ)関節脱臼である。
[永井 隆]
外力によって関節が生理的運動範囲(関節可動域)以上の動きを強制され、関節端の一方が関節包を破って関節面の正常な相対関係を失ったものをいう。関節面の一部が互いにまだ接触しているものを不全脱臼または亜脱臼といい、関節面がまったく接触していないものを完全脱臼とよぶ。また、初回の脱臼整復後に軽微な外力で容易に脱臼を繰り返すものが習慣性脱臼で、自己の意思で脱臼をおこしたり整復もできる随意性脱臼も含む。
脱臼頻度は、骨折に比べるとはるかに低い。全脱臼の約85%が上肢にみられ、また約半数は肩関節脱臼である。肩関節は関節可動域が広く、しかも上腕骨骨頭の大きさに比べ、関節窩が非常に小さくて浅いために脱臼しやすく、習慣性脱臼もおこしやすい。
なお、近年は交通事故による股関節脱臼が増えている。これは、衝突事故でドライバーが膝(しつ)関節部をダッシュボード(計器盤)に激しくぶつけ、大腿(だいたい)骨骨頭が寛骨臼後縁に衝撃を与えて寛骨臼を骨折し、骨頭が後方に脱臼する股関節脱臼である。
[永井 隆]
関節炎をはじめ関節の種々な病変によって骨の破壊、関節包の拡張や弛緩(しかん)、関節を固定する靭帯(じんたい)や筋の弛緩などをきたしたり、あるいは麻痺(まひ)などのため二次的に脱臼するものをいい、それぞれ破壊性脱臼、麻痺性脱臼とよばれる。
[永井 隆]
受傷後できるだけ早く全身麻酔下で非観血的に整復(徒手整復)する。一般には整復後断裂した関節包が癒合修復される約3週間を目安に、固定して安静を保ち、その後なるべく早くから機能訓練を始める。また、腱(けん)や筋肉、関節包、骨折片などが介在したり、脱臼したまま放置されていた陳旧例で瘢痕(はんこん)や癒着を生じて徒手整復が困難な場合には、手術による観血的整復が行われる。早期に整復して合併損傷も少ない場合の機能的予後は良好であるが、開放性損傷があったり陳旧例の場合は関節拘縮をおこし、運動制限が残ることがある。肩関節脱臼では習慣性脱臼をきたさないように留意することが重要である。
[永井 隆]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…結晶学用語。ディスロケーションともいう。格子欠陥の一種で,原子の配列あるいは結晶格子の乱れが一つの線に沿って生じているものをいう。結晶固体に外から引張りや圧縮などの力を加えると,ある程度以上大きい力に対しては,変形を起こしたまま元に戻らない(塑性変形)。変形が元に戻らないのは,原子のつなぎかえが起きることによるものであるが,これにあずかるのが転位である。転位の概念の萌芽は1900年ころまでさかのぼることができるが,塑性変形を担うものとしてその重要性が認識され,近代的な形で導入されたのは,1934年イギリスのテーラーGeoffrey Ingram Taylorらの研究によってである。…
…このことは肩関節の運動性がきわめて大きいことに関連しているが。その反面,脱臼をおこしやすい欠点がある。関節包の外面にはとくにこれを補強する靱帯はないが,関節の運動に関係した筋肉が関節包を補強している。…
※「脱臼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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