改訂新版 世界大百科事典 「兵器工業」の意味・わかりやすい解説
兵器工業 (へいきこうぎょう)
狭い意味では,火器,弾薬,戦車,艦艇,軍用航空機,ミサイルなど,直接戦闘に使用される兵器について,研究開発,生産,修理を行う工業をいう。しかし,現代兵器は,電子工業技術の進歩によって,レーダー,通信装置,自動射撃管制装置,ECM(electronic counter-measure,電子対策)装置,ECCM(electronic counter-counter measure,対電子対策)装置などの電子機器の重要性が増している。このように,電子機器は兵器の高性能化やシステム化に欠かせないので,現代では,兵器工業という場合,これらの軍事用電子機器もその範疇(はんちゆう)に加えられる。兵器工業の類義語としては軍需産業や防衛産業があり,日本では防衛産業という用語が一般化している。防衛産業や軍需産業という場合は,狭義では軍事用電子機器を含めた兵器工業と同一の意味であるが,広義では燃料,繊維製品,医薬品,食料などの汎用品を含めて,軍事用として調達されるいっさいの物資の製造業,販売業を意味する。
兵器工業の成立と発展
近代兵器工業の誕生は,機械工業や化学工業の基礎が確立した19世紀に入ってからである。それ以前の兵器生産は,官営により集中化された手工業的な規模で行われていた。アメリカでは,1861年に始まった南北戦争による兵器需要によって,ホイットニー社,レミントン社,スミス・アンド・ウェッソン社などの兵器会社の基礎が確立され,デュポン・ド・ヌムール社もクリミア戦争(1853-61)の弾薬輸出で産をなした。一方,ヨーロッパにおいても,1860年代,70年代の諸戦乱による大量の兵器需要がビッカース社,シュネーデル社,クルップ社などの兵器会社を確立させることとなった。その後の第1次,第2次大戦において,航空機,ロケット,原子力,電子機器などの新技術が兵器に利用され,兵器工業は技術面で長足の進歩を遂げ,現在に至っている。このように,数多くの新技術が軍需のもとで発展し,兵器工業が,一般産業に対する基礎技術の開発とその波及効果において果たした意義は大きい。現代の主要な兵器会社としては,アメリカのゼネラル・ダイナミック社,マクダネル・ダグラス社,ロックウェル・インターナショナル社やフランスのダッソー・ブレゲー社などがある。
日本の兵器工業
第2次大戦前,日本の兵器工業は,陸・海軍の工厰を中核として発展したが,敗戦によって兵器生産が全面的に禁止され,それまで兵器を生産していた諸企業は平和産業に転換した。しかし,1950年の朝鮮戦争勃発を契機として,アメリカ軍の特需の形で兵器,軍用車両の修理が開始され,その後52年に〈兵器航空機等の生産制限に関する件の一部を改正する命令〉が出された。続いて〈航空機製造事業法〉(1952公布)および〈武器等製造法〉(1953公布)により,戦前とは異なる民間企業中心の兵器生産が再現した。現在では日本はアメリカに次ぐ経済大国であるが,兵器工業については,先進欧米諸国と比べて,規模がはるかに小さく,ほとんどの分野で国際競争力がない。その原因の第1は,日本の防衛費がアメリカは別としても,西ドイツ,イギリス,フランスなどに比べてはるかに少ないことである。第2は,これらの先進諸国では軍需産業が重要な輸出産業であるのに対して,日本では武器輸出三原則によって,輸出が厳しく制限されていることによる。日本の代表的な兵器会社としては三菱重工業,川崎重工業,三菱電機,石川島播磨重工業,日本電気,東芝などがあげられ,この上位6社で,防衛庁調達実施本部の95年度総契約高の50%を占める。
執筆者:黒田 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報