写真感光理論(読み)シャシンカンコウリロン

化学辞典 第2版 「写真感光理論」の解説

写真感光理論
シャシンカンコウリロン
theory of photographic sensitivity

ハロゲン化銀写真の感光機構は,1938年に提唱されたGurney-Mott説をはじめとして多くの研究,議論がなされ,大結晶とは大きく異なるハロゲン化銀微結晶の物性にもとづいて明らかになってきている.これによれば,
(1)光吸収によってハロゲン化銀結晶の伝導帯に光電子,価電子帯に正孔が生成する.
(2)光電子はハロゲン化銀粒子中を移動して,浅い電子トラップ(硫化銀など感光核)に捕獲される.この電子トラップは1個の光電子を捕獲できるだけである.捕獲された電子は,熱エネルギーで伝導帯に励起され,ふたたび移動,捕獲を繰り返す.
(3)あるトラップに捕獲されている間に,結晶中の格子間銀イオンと反応して銀原子を生成する.大結晶の場合とは異なり,微結晶中には粒子中を動くことのできる格子間銀イオンが十分存在している.電子が反応してしまえば,トラップはふたたび次の光電子を捕獲することができる.
(1),(2)の電子過程と(3)のイオン過程が同じ場所で繰り返されると,銀のクラスターが1原子ずつ逐次成長する.銀原子クラスターが一定以上の大きさになると潜像中心とよばれ,粒子は現像可能になる.現像可能になる最小の潜像中心のサイズは,金硫黄増感乳剤では3原子,硫黄増感のみでは4~5原子である.潜像中心は核形成と成長過程を経て生成されるが,このように光吸収の効果が一か所に集まることを集中原理という.感光機構を考察するうえで重要な現象である相反則不軌は,次のように理解される.光電子の供給速度が非常に遅い低照度では,銀原子クラスターが熱的に安定な大きさに成長する前に消滅し,写真感度が低下する(低照度相反則不軌).このような照度のしきい値の存在は,乳剤の保存中に偶発的に熱で生じた微小な銀クラスターを,かぶり核にまで成長させないための抑制機構として役立っている.高照度の場合には,現像可能な大きさまで成長しない多くの銀クラスターが形成されるため,潜像形成が非効率になり,写真感度の低下,すなわち高照度相反則不軌がみられる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報