ねじ切り餅、ちぎり餅ともいう。食べると力がつく餅というので、街道筋の峠茶屋などで商われた。今日に残るものでは茨城県筑波(つくば)山の弁慶の力餅、中山道碓氷(なかせんどううすい)峠の熊野権現(ごんげん)前の力餅、和田峠東餅屋の力餅、鎌倉市坂ノ下の御霊(ごりょう)神社(権五郎神社)前の力餅が有名。また中央本線笹子(ささご)駅の笹子餅は大福餅に変わったが本来は峠の力餅であったし、奈良市の大仏餅も朝比奈三郎の大力にちなむ力餅に始まる。
一方、地方によっては、出産時に力がつき、母乳がよく出ることを願って贈る餅を力餅という。また生誕1年の誕生日を祝って贈る力餅は一升餅(一生保(も)つ、食に困らない)で、この力餅を子に負わせる慣習もある。
[沢 史生]
…一方,力の根源は,米に秘められているという信仰もある。力飯(ちからい)とか力餅(ちからもち)が知られるが,島根県浜田市付近では,元旦に炊いた米の飯を山の形に盛って飾り,力飯様として拝んだりした。産婦に,出産後すぐ10粒から15粒ほどの米粒を嚙ませると元気がでるという言い伝えが各地にみられ,これを力米(ちからごめ)と呼んでいる。…
…満1年ころは立歩きができるようになり,飛躍的な成長をみせる時期なので,ハツアルキを中心にしたさまざまな儀礼が行われている。この日つく餅を力餅,タッタリ餅,立ち餅,ブッサリ餅などという。生児が初誕生前に歩きだすのを嫌う風が全国的にあり,誕生前に歩きだした子には,一升餅を父親の帯またはふろしきに包んで背負わせわざと転ばせる。…
…これを強いて概すれば,慶事を除く各種とり込みごとに際した訪問であり,祝いと呼ぶにははばかるような贈答を見舞と称する。産見舞は産屋(うぶや)見舞・小屋見舞ともいい,7日目(七夜)の出産祝とは別にこれに先だって近親の女たちが餅(糯)米などを持ち寄ることであり,これで力餅をつき産婦に食べさせる地方もある。病気見舞も贈られる品には食べ物が多く,つい近年までは病人はこれを見舞人とともに食するものとされ,重態で食べられない場合でも見舞人にはまくら元で馳走するのがしきたりと考えられていた。…
…そうすると稲以前の農耕文化との関係が問題となってくる。近世以降から都市や街道筋などで餅やだんごが売られ,とくに力餅といって旅行者などに人気があった餅は,稲霊の信仰が強く影響したものと考えられるが,同時にうどん,そばをはじめとして,各地の名産に混ぜ餅が伝えられているのは,日本における食文化の多様性を物語るものであろう。また一方で,〈餅なし正月〉といって正月に餅を搗かない習俗も各地に見られる。…
※「力餅」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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