改訂新版 世界大百科事典 「労働取引所」の意味・わかりやすい解説
労働取引所 (ろうどうとりひきじょ)
bourse du travail
19世紀末以降,株式取引所を模して,フランスの諸都市に設置された職業紹介機関。1887年にパリに初めて置かれたのち,20年間に150余りを数えるにいたった。多くの場合市当局が設置しかつ運営費を提供して労働組合に事務所を貸与し,これらに職業斡旋業務を実施させる形態をとったため,労働者の雇用安定のみならず,労働組合の育成を促進するものとなり,またこの機関を未来社会創出の核として位置づけるフランスに固有のサンディカリスム運動展開を助けることになった。だが労働取引所は市当局の監督下に置かれた施設であったため,組合運動の闘争拠点としての機能としばしば矛盾を生じた。この機関が93年のパリの事例をはじめとして数次にわたる行政当局の干渉の対象となった理由がここにある。現在,この機関はパリ,リヨンなどの都市において政治的性格を払拭した労働組合会館として存続しており,職業斡旋業務を行っている。なお,フランスの労働取引所にならって,イタリアでも19世紀末に労働会議所camera del lavoroが設置された。これは当初はフランスと同様,市当局による職業斡旋,技術教育機関であったが,ほどなく,労働運動の拠点となっていった。その背景には,世紀末の農業恐慌と協同組合運動の活動があった。
執筆者:相良 匡俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報