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農業恐慌 ノウギョウキョウコウ

デジタル大辞泉の解説

のうぎょう‐きょうこう〔ノウゲフキヨウクワウ〕【農業恐慌】

農産物の過剰生産によって価格が暴落し、農業の再生産過程攪乱(かくらん)させ、また攪乱を通じて調整する現象。

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百科事典マイペディアの解説

農業恐慌【のうぎょうきょうこう】

農産物の過剰生産によって起こる恐慌。工業の恐慌は原料,食糧としての農産物への需要を減少させるので農業も工業の周期的恐慌にまきこまれる。19世紀末のイギリス農業恐慌は,一般的な恐慌の影響のほかに,地代の安い新大陸からの安価な農産物の大量流入によって高い地代のイギリス型借地農業が圧迫されたことによる。
→関連項目農業

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世界大百科事典 第2版の解説

のうぎょうきょうこう【農業恐慌】

どのような現象を農業恐慌というか,厳密にいえば学説が分かれている。しかしおおよその共通した認識は,農産物価格が大幅に低落しかつそれが長期化する結果,農業経営がはなはだしく困難な状態に置かれつづけるということである。もっとも,これだけでは恐慌現象一般とさして変わるところがなく,農業恐慌とよぶからにはそこになんらか特別の理由がなければならない。まず一般の循環性恐慌との関連では,農業恐慌は独自の原因で発生するまったく別のものであるという学説も存在したが,今日ではむしろ循環性恐慌に触発されて発生するという理解が一般的である。

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大辞林 第三版の解説

のうぎょうきょうこう【農業恐慌】

農業部門にあらわれる恐慌。農産物の生産過剰から農産物価格が暴落し、農業経営がいちじるしく困難になる状態。一般に、回復に時間がかかる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

農業恐慌
のうぎょうきょうこう
agricultural crisis英語
crise agricoleフランス語
Agrarkriseドイツ語

資本主義的商品生産の基本矛盾が農業部門で発現し、農産物価格の暴落などを通じて再生産過程を攪乱(かくらん)し、また攪乱を通じて調整する現象で、農産物の過剰生産恐慌をいう。その意味で、農業恐慌もまた商工業恐慌と同様に、一般経済恐慌の一構成部分をなすが、歴史的に問題となった「農業恐慌」は、そうした一般経済恐慌の構成部分に解消しきれない特異な性格をもって現れた。「19世紀末農業恐慌」とか「1920~1930年代農業恐慌」といわれる現象である。これらは一般経済恐慌の周期よりはるかに長く、約20年間も持続したといわれている。このことから、農業恐慌といえばその長期性において特徴づけられ、一般経済循環の数周期にわたって持続しているということから、長期農業恐慌は一般経済恐慌の循環とはまったく独立しているものと考えられてきた。そこで、農業恐慌は伝統的に周期性の欠如した慢性的または長期農業恐慌とされたのである。
 だが、農業恐慌も資本主義的恐慌であり、「基本矛盾」から生ずる資本主義的諸矛盾の「暴力的な一時的解決」である限り、農業恐慌が20年間も持続するとすれば、それはもはや恐慌に値しない。少なくとも、資本主義的諸矛盾の「暴力的な一時的解決」としての恐慌とは別個のものといわなければならない。「暴力的な一時的解決」としての農業恐慌である限り、その長期性は一恐慌循環内での長期性(地代の存在、小農民経営の残存、農業生産の自然循環的性格に基づく)でしかありえない。「農業恐慌」が20年も持続したのは、世界資本主義の構造変化、一般経済恐慌の慢性化、農業生産力の展開と農産物世界市場の形成に基づく市場調整的農産物価格の長期的低落、地代範疇(はんちゅう)の危機、農民層分解の急速な進展などと結び付いていたからである。「19世紀末農業恐慌」では、鉄道や蒸気船の発達によって、アメリカなどの安い穀物がヨーロッパに流入して穀物価格の規定者になったので、ヨーロッパ、とくにイギリスの穀作が大打撃を受け、畜産、工芸作物などへの転換や劣等地からの資本引上げを余儀なくされ、地代低下によって地主も経済的困難に陥った。時あたかも、イギリスの「工業独占」がアメリカ、ドイツなどの勃興(ぼっこう)によって終わりを告げ、独占資本が形成されるといった世界経済の構造変化と結び付いた「大不況」期とかち合い、統一的な農産物世界市場の成立に伴う価値規定そのものの低下によって農産物価格の長期的低落が現れて「長期農業恐慌」となったのである。だが、19世紀第4四半期における恐慌の長期性は農業部門にのみ固有のものではなかったし、市場価値そのものの低下に基づく価格の低落は恐慌ではない。これは1870~1890年代におけるいくつかの全般的過剰生産恐慌の構成部分としての循環性農業恐慌とは区別さるべきである。「1920~1930年代農業恐慌」は、生産力基盤と産業循環の性格のそれぞれ相異なる1920~1923年、1929~1933年、1937~1939年の、それぞれの循環性農業恐慌の総称と理解さるべきである。
 しかし、恐慌論的には農業恐慌を循環性農業恐慌と把握すべきことから、農産物過剰問題を循環性の全般的過剰生産恐慌一般に埋没させてはならない。国家独占資本主義的農産物過剰は、とくに第二次世界大戦後は、もはや一般経済恐慌の一構成部分としてはかならずしも現れず、むしろ構造的過剰として現れるからである。恐慌回避のための価格支持制度が内訌(ないこう)的に農産物過剰を累積させるというメカニズムが形成されているからにほかならない。
 また、農産物過剰の一時的解消によって農産物過剰のメカニズムがなくなったかのように考えてはならない。価格支持制度によって累積されていたアメリカの農産物過剰が1972年の世界的「食糧危機」を契機に、「作付制限」を全廃するほどまでに解消し、「世界のパン籠(かご)」を目ざしてアメリカ農業は1970年代の黄金時代を迎え、輸出の増大によって農産物過剰は過去のものとなったかにみえた。アメリカの小麦輸出量は1970年の1840万トンから1981年には4461万トンと、2倍半近くに増大し、大豆も同じ期間に1156万トンから2527万トンと2倍以上に、トウモロコシは1970年の1644万トンから1980年の5937万トンへと実に3.6倍もその輸出量を増加した。しかし、1982年にはアメリカの農産物過剰はだれの目にも明らかとなり、1983年には大規模な減反計画PIK(Payment in Kind 政府の減反計画に協力する農民には生産調整奨励補助としてCCC〈商品金融公社〉から現物で支払われる)計画が大統領権限で実施され、さらに引き続き価格支持率引下げをねらいとしたFood Security Act of 1985(食糧安全保障法)によって農産物過剰に対処しようとしたのである。その結果アメリカの小麦支持価格は引き下げられ、1987年の期末在庫は1億7700万トンと1960年代以来のピークに達した。
 また、1990年代以降、EUの統合拡大や1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)発効など自由貿易圏の拡大、2000年代に入ってのBRICs等エマージング諸国の経済成長、バイオエタノール等への転用等により食糧農産物の需給が逼迫(ひっぱく)して価格騰貴が著しくなったので、農産物過剰問題などは決定的に解消したかにみえたが、アメリカのサブプライムローン問題に端を発する金融恐慌が2008年9月15日のリーマン・ブラザーズの経営破綻(はたん)を契機に本格的な世界経済恐慌の様相を呈してきた今日、ふたたび農業恐慌が発生する可能性が出てきた。価格高騰を契機に農産物は増産体制にあるのに、恐慌によって失業者が増え、賃金カット等によって農産物への需要が減退するうえに、高騰していた石油価格の急落でバイオ燃料生産が不採算となって、この面からも農産物需要が減って農産物過剰化となりうるからである。[常盤政治]
『石渡貞雄著『農業恐慌論』(1953・理論社) ▽大内力著『農業恐慌』(1954・新版1982・有斐閣) ▽常盤政治著『農業恐慌の研究』(1966・日本評論社) ▽『栗原百寿著作集3 農業危機と農業恐慌』(1976・校倉書房) ▽宮下柾次著『資本主義と農業恐慌』(1972・法政大学出版局) ▽『特集 いまアメリカ農業に何が起こっているか』(『農業と経済』1985年7月号所収・富民協会) ▽梶井功・服部信司編『日本農業年報54 世界の穀物需給とバイオエネルギー』(2008・農林統計協会) ▽小澤健二「1990年代以降の世界の食料および穀物貿易動向」(『農業研究』第21号所収・2008・日本農業研究所) ▽大賀圭治「バイオ燃料の食料・環境への影響に関する諸論点」(『農業研究』第21号所収・2008・日本農業研究所)』

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世界大百科事典内の農業恐慌の言及

【恐慌】より

…それに続く1873‐96年は,イギリス産業の過剰な固定資本の処理の困難,生産力の停滞,物価の低落傾向,利子率の低水準などにみられる〈大不況Great Depression〉が支配した時期であり,そのなかに生じた1882年恐慌や1890年恐慌にかけての好転も,微弱で短命なものであった。しかもその間,いわゆる交通革命の影響をうけてアメリカや東欧から安価な穀物が流入し,構造的な農業恐慌が存続した。この大不況の重圧のもとに,資本主義は巨大産業株式会社としての金融資本を支配的資本とする帝国主義段階に移行する。…

※「農業恐慌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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