日本大百科全書(ニッポニカ) 「勧告権」の意味・わかりやすい解説
勧告権
かんこくけん
日本の行政機関やその長が、他の行政機関(あるいはその長)に対し、資料の提出や説明を求めたり、是正を勧告したりする権利。複数の行政機関にまたがる問題について、役所の縄張り意識や縦割り行政の弊害を越えて解決できるよう、その問題を中心となって取り扱う行政機関に勧告権をもたせる場合が多い。すべての勧告権には根拠法があり、いったん発動されると他省庁への影響が大きく、「伝家の宝刀」とよばれる。消費者庁、復興庁、デジタル庁、こども家庭庁、原子力委員会、食品安全委員会などに勧告権がある。行政改革や規制緩和などを進める目的で内閣府などに設置される臨時審議会などにも、内閣総理大臣などへの勧告権をもたせる場合もある。地方自治体の合併を促進するため、都道府県知事に市町村長への勧告権を与えたこともある。ただし、勧告権には法的拘束力がなく、どのような場合に行使できるか、具体的な規定はない。このため行政機関どうしの軋轢(あつれき)を避けるため、勧告権はほとんど使われたことがなく、「抜かずの宝刀」と揶揄(やゆ)されることもある。東日本大震災からの復興の遅れについては復興庁(2012年発足)が、マイナンバー制度を巡るトラブルではデジタル庁(2021年発足)が、いじめ問題ではこども家庭庁(2023年発足)が、それぞれ勧告権をもつが、関係省庁に対し勧告権を発動したことは発足以来一度もない。消費者庁、原子力委員会、食品安全委員会などにも発動例はない。2012年(平成24)に廃止された原子力安全委員会(原子力規制委員会に移行)も勧告権をもち、2002年に原子力発電所の一連のトラブル隠しが発覚した際に、内閣総理大臣を通じて関係省庁に再発防止を求めて勧告権を一度発動したことがある。
[編集部 2023年11月17日]