基礎的地方公共団体たる市町村の首長。日本国憲法と地方自治法に規定される現行地方自治制度の下では,市町村長は住民の直接公選により選任され任期は4年である。市町村長の被選挙権は満25歳以上の者が有する。市町村長は当該団体を統轄し代表するものであり,執行機関の長として当該市町村に固有の事務を執行管理するほか,法律,政令によって執行が義務づけられた国政事務(機関委任事務)を執行管理する。市町村長の担任事務は広範であるが,議会の議決を要する事件について議案を提出すること,予算を調整し執行すること,地方税を賦課徴収し,分担金・使用料・手数料を徴収し過料を科すこと,決算を議会の認定に付すこと,会計の監督,財産の取得・管理・処分を行うこと,公の施設の設置管理,証書および公文書の保管,その他事務の執行である(地方自治法149条)。直接公選の首長と議会を対置する現行首長制では,市町村長の事務執行の多くは議会の議決を要する。しかし,市町村長は議会の招集権,再議権(いわば議会の議決に対する拒否権),専決権等をもつ。市町村長は議会で不信任決議が成立しかつ議会の解散をもってこたえなかったとき,および市町村長解職の直接請求が成立しかつ解職の住民投票で多数を占めたときに解任される(地方自治法81,82,178条)。
ところで,日本で市町村長職が設けられたのは,1888年の市制・町村制の公布によってである。だが98年まで市制に特例が設けられ東京,大阪,京都市には市長が置かれず府知事が兼務した。市制・町村制下の市町村長は市町村会で選挙され,市町村を統轄し代表した。担任事務は法形式的にみるかぎり現行とおおむね変わらないが,市町村の固有事務が非権力的行政に限定されていた。これに加え市町村長は法令によって国政事務の執行にあたり,かつ市町村行政全般について官選知事の監督を受けた。
戦後改革により市町村長は住民の直接公選となり,その権能にも住民の権利義務を規制しうる行政事務の執行管理が加わった。しかし,戦前との連続面である国政事務の執行は残存し,この事務の執行については知事の指揮監督を受ける。この国政委任事務(機関委任事務)は戦後経済発展過程で増加の一途をたどった。市町村長も〈中央に直結した地方自治〉を選挙で掲げ,地域開発のために中央に従属する傾向にあった。だが,都市公害問題の激化を機として,〈住民との直結〉を掲げる〈革新首長〉が各地に誕生した。彼らは公害,福祉,都市計画等の領域において国を先導する施策を実施し,またこれらの行政や市町村計画の策定に住民の参加を積極的にすすめた。市町村長が国の末端行政機関から市民の代表機関へと転回し,政治的立場を強化したのは1970年代に入ってからである。今日,保守,革新を問わず市町村長は,住民の意向に密着し個性あるまちづくりを志向する傾向にあるが,なお,機関委任事務をはじめ国・府県の行財政統制を受けている。
→委任事務 →地方議会
執筆者:新藤 宗幸
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市町村の長たる執行機関。その市町村内の住民(選挙人)により直接選挙される(憲法93条、地方自治法17条)。明治憲法下の旧制度においては、市町村長は市町村会が選挙するたてまえであったが、日本国憲法の下では住民の直接選挙による(公選)ことになった。日本国民で年齢25歳以上の者は、一定の欠格事項に該当する者を除き、市町村長の被選挙権をもつ(公職選挙法10条・11条)。市町村長は、衆議院議員または参議院議員、地方議会の議員および地方公共団体の常勤の職員などを兼ねることができず(地方自治法141条)、また一定の職につくことも禁止されている(同法142条)。任期は4年であり(同法140条)、一定の事由に該当すると失職するほか(同法143条)、住民の解職請求(同法81条以下)、議会の不信任議決などによって失職することがある(同法178条)。市町村長は、その市町村を統轄し代表する執行機関であり(同法147条)、市町村の事務を管理執行する(同法148条)。市町村長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に関し、規則を制定することができる(同法15条)ほか、職員の任免権(同法172条2項)、職員に対する指揮監督権(同法154条)、市町村長が管理する行政庁の処分が違法である場合にこれを取り消し停止する権限(同法154条の2)、事務組織を設置編成する権限(同法155条・156条・158条)などを有する。
[福家俊朗・山田健吾]
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