2011年3月の東京電力福島第1原発の事故発生時、日本の原子力利用の安全規制を監視するために設置されていた国の委員会。もとは原子力委員会と一体だったが、1978年に分離された。有識者5人で構成、事務局は内閣府に置かれていた。経済産業省原子力安全・保安院とのダブルチェック体制を取っていたが、福島の事故対応に失敗して共に2012年に解体。その後、独立性の高い原子力規制委員会と事務局役の原子力規制庁が発足した。
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日本の原子力の研究・開発および利用に関する事項のうち、安全確保に関する事項について企画し、審議し、決定する権限をもっていた委員会。1974年(昭和49)原子力船「むつ」の放射線漏れ事故を契機に、原子力行政、とくに安全規制のあり方についての見直しが行われ(原子力行政懇談会)、原子力委員会の機能のうち、安全規制を独立して担当する原子力安全委員会が旧総理府に設置された(1978年10月4日)。その後、2001年(平成13)1月の中央省庁再編により総理府が再編統合されて内閣府となったのに伴い、原子力委員会とともに内閣府に移行した。
原子力安全委員会は、国会の同意を得て内閣総理大臣が任命する常勤および非常勤の委員5名で組織され、委員長は常勤委員のうちから互選によって選ばれた。初代委員長は吹田徳雄(すいたとくお)(1911―1981)。
原子炉安全専門審査会および核燃料安全専門審査会が常置されていたほか、原子炉や核燃料の安全基準などの各種専門部会が設けられて調査審議を行っていた。内閣総理大臣の報告尊重義務などは原子力委員会と同じであるが、アメリカの原子力規制委員会などのような強大な権限を有する行政委員会ではないため、実際の許認可権を掌握する経済産業省(旧通産省)などに対し、有効な再審査(ダブルチェック)が可能かどうかが危惧(きぐ)されていた。
また、原子力の研究開発は文部科学省(科学技術庁と文部省が統合)が担当し、原子力のエネルギー利用に関する規制・安全確保等の所掌は経済産業省が担当することになった。また、経済産業省外局の資源エネルギー庁に原子力安全・保安院が設けられた。
原子力安全委員会の内閣府への移行は、同委員会の重要性が増していることを示すものではあるが、安全確保の作業に必要なスタッフの多くが、原子力安全・保安院に移る可能性があり、内閣府でのスタッフ確保が委員会機能の有効性を左右する。2001年時点の原子力安全委員会事務局は、総務課のほかに審査指針課、管理環境課、規制調査課という構成となっていた。
1999年9月30日に茨城県東海村の核燃料加工工場(JCO東海事業所)で起こった臨界事故は、作業員2名が死亡、日本の安全規制体制の欠陥をあからさまに示す結果となった。事故発生に際して、安全規制を担う国の機関である原子力安全委員会と旧科学技術庁の両機関ともに防災上拙劣な対応しかとれないまま延々と時間を過ごし、付近住民を中性子照射に曝(さら)されるままにした。事故の終息のために現地に赴いた一原子力委員が述べているように、安全委員は何らの行政権限をもたないために、終息のための措置は命令ではなく要請にとどまったのである。事故の安全審査上の問題点として、(1)中・高濃縮ウラン用の「安全審査指針」をもたずに安全審査が行われていたこと、(2)臨界防止に必要な形状制限が認可された装置では守られない可能性があるにもかかわらず、質量制限に注意すべしという指示にとどめてしまったこと、(3)再溶解および均一化工程について具体的な検討を行っていなかったこと、などがあげられる。しかし、これらの欠陥について、政府の設けた「ウラン加工工場事故調査委員会」の報告では、ほとんど触れられていない。それはこの委員会が原子力安全委員会のもとに設置され、その事務局を科学技術庁が行ったためであろう。アメリカのスリー・マイル島(TMI)原発事故の際には、事故調査委員会(「ケメニー委員会」)が大統領に直属し、強大な権限をもつ原子力規制委員会(NRC)も事故調査の対象となったのと比べれば雲泥の差がある。なお、かつて原子力船「むつ」の事故に際して設けられた原子力行政懇談会は首相の私的諮問機関であった。中央省庁再編という機会を利用して、原子力行政のあり方について再度検討が行われるべきであった。
[中島篤之助]
原子力安全委員会は2012年(平成24)9月に廃止され、新設された原子力規制委員会に移行した。
[編集部]
原子力の研究,開発および利用に関する国の施策を計画的に遂行し,原子力行政の民主的な運営を図ることを目的として,1978年10月に新たに総理府に設置された委員会。原子力の研究,開発および利用に関する事項のうち,安全の確保のための規制に関する事項について企画し,審議し,決定する権限を有しており,内閣総理大臣は,原子力安全委員会の決定について報告を受けたときは,これを十分に尊重しなければならない。また,所掌事務について必要があると認めるときは,内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長に勧告することができること等の法的権限を有している。原子力安全委員会は,所掌事務遂行の一環として,原子炉等規制法に基づき,原子炉の設置許可等の基準の適用のうち安全性および技術的能力に関する事項について,主務大臣の諮問に応じて必要な調査審議を行い,その結果を答申している。主務大臣は,原子炉の設置許可等の行政処分を行う場合は,この答申に盛り込まれた原子力安全委員会の意見を十分に尊重して行わなければならないこととなっている。
原子力安全委員会は,衆参両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する5人の委員で構成され,委員長は委員の互選で選出される。また,原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議する原子炉安全専門審査会(45人以内の審査委員で構成)および核燃料物質に係る安全性に関する事項を調査審議する核燃料安全専門審査会(40人以内の審査委員で構成)を置いており,さらに,専門の事項を調査審議させるための専門委員を置いている。
執筆者:天野 徹
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(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)
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