北欧の大学改革(読み)ほくおうのだいがくかいかく

大学事典 「北欧の大学改革」の解説

北欧の大学改革
ほくおうのだいがくかいかく

北欧諸国において進められてきた大学改革の多くは,北欧レベルでの連携・協力関係を基盤として,相互に影響し合いながら進められてきた。とくにスウェーデンが実行した改革に他の北欧諸国が学ぶという事例は,高等教育制度が整備されていく段階において多く確認できる。こうした北欧諸国内での学び合い(政策研究)に加え,近年は高等教育の大衆化や国際化・グローバル化など,高等教育の国際的な潮流が,各国の改革動向に与える影響が色濃くなっている。とりわけ,1999年のボローニャ宣言を契機として欧州で進められたボローニャ・プロセスと呼ばれる高等教育改革が北欧諸国にもたらした影響は甚大なものであった。学士と修士から構成される学位制度単位互換制度確立,質保証システムの整備など,この枠組みのもとで進められた改革において,北欧諸国はこれらを導入するだけでなく,速やかにそのプロセスを実行した国と評されている。

 欧州で進む改革に加え,高等教育をめぐる国際的な動向の影響も大きい。①二元型高等教育システムをめぐる改革による「大学」の再定義,②高等教育の再編・統合,③国と大学の関係の変化,④ガバナンス改革などは北欧諸国においても進められている。これらは,いずれもこれまでの北欧諸国の大学のあり方に転換を促すような改革である。

 まず,高等教育制度の二元化(北欧)とは,学術型の大学に加え,新たに職業型の高等教育機関を設置するというものである。北欧諸国の中ではスウェーデンが最も早く,1970年代末に導入していたが,90年代に入り,ほかの北欧諸国もこれに追随している。高等教育レベルの職業教育を提供する機関として,当初は学術型大学との相互補完性が意識されていたが,近年,大学を取り巻く環境が変化する中で,両者の違いが曖昧になりつつある。とくにスウェーデンやノルウェーにおいてその傾向が顕著であり,職業型の高等教育機関(大学カレッジ)であっても博士号授与権を認められている課程を持つ機関もあるほか,条件を満たせば大学へ昇格することも可能である。これまで博士号の授与権を持つことが大学を特徴づける要素の一つとされてきたが,すべての課程において博士号授与権を有しているか否かということへと変化している。

 2点目の高等教育の再編・統合は,2000年代後半から進められている。機関を大規模化すること,および合理化を図ることにより,国際競争力を高めることを主たるねらいとしている。各国で進められている改革であるが,①いつ実施するか,②実施プロセスが急進的であるか漸進的であるか,③どのセクターを対象とするか(大学,その他の高等教育機関,その両方),④セクター内での再編であるか,セクターを超えた再編であるか(大学のみで行われるのか,他の高等教育機関も含めた再編であるか),といった点においてはそれぞれ異なっている。

 これに大規模な形で,いち早く取り組んだのがデンマークの大学改革である。2007年に政府系の研究機関を含める形で再編が行われ,12機関あった大学が8機関に統合された。デンマークとともに大規模な統合を進めているのがフィンランドの大学改革である。「トップ大学」構想(フィンランド)のもと,ヘルシンキ工科大学・ヘルシンキ経済大学・ヘルシンキ芸術デザイン大学という三つの単科大学を統合して,アールト大学(フィンランド)を設立するなど,戦略的に再編を行っている。一方,ノルウェーは2008年に大学の統合が計画されたが,国会において法案が否決されている。

 3点目の国と大学の関係の変化は,国によっては大学のあり方を転換させるほどのインパクトを持つものであった。実際,デンマークは2003年に財団化を,フィンランドは2010年に法人化・財団化をそれぞれ実行している。これは,それまですべての大学が国立であった両国にとっては大きな変化であった。改革に対する各国のスタンスの違いから,大学の設置形態こそ異なっているが,大学の自律性を高めていくという全体的な方向性は,北欧諸国すべてに共通するものである。実際,1990年代以降の高等教育政策は,大学の自律性の担保とその向上を前提として展開されている。

 4点目のガバナンス改革のうち最も目に見える変化は,大学運営における外部関係者の参画である。これまで北欧諸国では大学の管理運営等に係る意思決定を,教授,その他の教育・研究・事務職員,学生の三者から構成される会議体において決定してきた。いわゆる三者自治(北欧)と呼ばれる大学の管理運営モデルである。これに新たに外部関係者の参加が義務付けられることとなっている。理事会等,最高意思決定機関における内部関係者と外部関係者の比率や,議長を外部関係者から選任するか否かなど,その関与の度合いは各国で異なるが,外部関係者の参画と関与を増やしていく傾向にあることは北欧諸国すべてに共通している。
著者: 渡邊あや

参考文献: Hallituksen esitys yliopistolaiksi ja siihen liittyviksi laeiksi, 20.2, 2009.

参考文献: Jan Petter Myklebust, “More autonomous universities,” University World News, No.153, Vol.09, January 2011.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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