改訂新版 世界大百科事典 「医学典範」の意味・わかりやすい解説
医学典範 (いがくてんぱん)
al-Qānūn fī al-ṭibb
11世紀に成立したイブン・シーナーの主著でイスラム医学の最高権威書。グルガーンやハマダーン等イラン各地の宮廷で典医として活躍した著者が公務の合間に,弟子のジューズジャーニーJūzjānīらとまとめた教科書的典範。イスラムの精神に基づき,ヒッポクラテス,ガレノス以来の成果を,アリストテレスの方法をもって統一した書物。5巻から成り,第1巻は概論で医学の定義と課題に始まり,解剖学,生理学,病理学,診断学,養生法,治療法に及ぶ。第2巻以後は,単純薬物論,病気各論,形成術論,合成薬物論を含む。ほぼ1世紀後のジュルジャーニー著《ホラズム王の財宝》はこの書物に多くを負い,イスラム圏では今日にまで影響を残す。13世紀にクレモナのゲラルドによりラテン語訳され《Canon Medicinae》として西洋中世から近世初頭まで定本的地位を占めた。パラケルススの反論などにもかかわらず,モンペリエの医学校では17世紀中葉まで用いられた。
執筆者:五十嵐 一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報