翻訳|toxicology
毒物の作用機序(メカニズム)を明らかにし、中毒の診断、治療、毒物検出法、予防などの方法を広く研究する学問で、中毒学ともいう。また最近では毒性学、毒科学ともよばれるが、その背後には薬理学のほか、化学、生物学、生理学、病理学、公衆衛生学、免疫学などとの関連が必要とする考えがあるためである。ルイ16世の侍医であり、毒物学の創始者でもあるスペインのオルフィラM. J. B. Orfila(1787―1852)は、毒物学を「毒物についての研究」と広義にとらえている。毒物とは、比較的少量でも生体系に化学的に作用し、有害な作用を及ぼしたり、その機能を障害したり、死亡させたりする物質のことで、すべての化学物質や物理的刺激が毒物となりうる。また、疾病治療や健康状態維持の目的に使われる治療薬(狭義の薬物)でも、大量の使用、長期間の持続的使用、あるいは薬物を受け入れる個人的条件(小児、妊婦、特異体質者など)によっては、毒として作用しうるものである。『史記』に「毒薬は口に苦く、病に利す」と載っているが、毒薬は少量であっても強い作用を呈するし、致死量もきわめて少量である。16世紀のスイスの医学者パラケルススは、「すべての物質が有毒である。有毒でない物質はなく、用量によって薬であるか毒であるかが決まる」と述べている。
言語的にいえば、毒poisonまたは毒作用toxicityにあたる(中(あ)たる)ことが中毒poisoning, intoxicationであり、医学的には生体の機能障害(病的状態)が中毒といえるわけで、生命の危険を招く場合もある。中毒は、蓄積または習慣作用などの毒物自体の条件、毒物の用法や用量、生体の個人的条件などによって異なってくるため、中毒の診断にあたっては、周囲の状況、臨床症状や経過、解剖所見、化学的検査、動物実験、自他殺の別などがたいせつである。最近、圧倒的に多い一酸化炭素ガス中毒では、その70%が自殺である。催眠剤や除草剤も自殺に使われる。他殺には毒薬の青酸、有機リン系農薬が多く使われる。
中毒には急性中毒と慢性中毒があり、急性は健康状態から数分、数時間内に劇烈症状を呈し、慢性は薬毒物の長期間反復摂取後に中毒症状が発現する。急性毒性の研究は数多くなされているが、慢性毒性の研究は、近年になって重大視されるようになったものである。連続投与を要する新薬の開発では、急性毒性とともに慢性毒性の研究がたいせつとされる。従来、薬物の毒(副作用)は服用者にのみ注意が払われてきたが、サリドマイド禍(1957~58)を契機として、薬害のみならず、食品添加物、残留農薬、公害なども重視されるようになっている。現在の毒物学の役割は、目のくらむような数の実益毒物の完全使用の研究を中心として、その分子レベルでの現象を解明することにある。
[澤口彰子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
… 現在,医薬品,食品添加物や諸種化学物質が世に出る前に,これら薬物の生体障害をヒトがこうむることがないように検索する目的で,各種の一般毒性試験や生殖試験,変異原性試験や癌原性試験をヒト以外の実験系(細菌,培養細胞や実験動物)を用いて詳しく追究する手段がとられ,それによってヒトへの障害を予測したり,医薬品の場合は適用量,食品添加物では1日摂取許容量などが決められている。
【毒物学】
医学,薬学の一分野で,いわゆる毒物を対象とする科学。毒物の自然界の分布や分類,毒物の化学的性状と有害作用の同定,作用発現の機序および理論の究明などが行われる。…
※「毒物学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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