改訂新版 世界大百科事典 「医学的心理学」の意味・わかりやすい解説
医学的心理学 (いがくてきしんりがく)
medical psychology
臨床医学における人間理解のための心理学。同じ人間の心理または精神を対象とする学問領域として,精神病理学あるいは異常心理学があるが,これらはもっぱら精神の異常状態についての症状記述とその分析から出発したものである。これに対して医学的心理学は,医療を行ううえに必要な全般的な人間心理の理解,とりわけ心身医学的理解を目標とするものである。このためには,精神生理学的知識と並んで精神分析学,行動科学,条件反射学などの知識も重要となってくる。医学的心理学という言葉は,精神現象の理解のために生理学的知識を導入したR.H.ロッツェにはじまるが,その後医学的心理学は,精神の異常に対して身体因,心理因,環境因,性格因といったさまざまな方向からの解析が必要であるとし,多次元精神医学を提唱したE.クレッチマーによって確かなものとなった。クレッチマーは《医学的心理学Medizinische Psychologie》と題する有名な著書を著した(1922)。彼はこの書の目的を,身体疾患や精神疾患の際に直接または間接的に疾病過程をきめたり,それに関与する精神過程の理解にあるとし,項目として,主要な精神運動機能とその解剖生理学的基礎,精神の発達史的な構成,欲求と気質,人格と反応型などをあげている。
執筆者:武正 建一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報