異常心理学(読み)いじょうしんりがく(英語表記)abnormal psychology

  • いじょうしんりがく イジャウ‥
  • いじょうしんりがく〔イジヤウ〕
  • 異常心理学 abnormal psychology

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

精神障害者の病的心理催眠状態,群集心理などのいわゆる例外状態の心理,あるいは不安に対する心理的適応機制などを対象とする。精神分析影響を受けた力動心理学立場から論じられることが多い。しかし,異常というからには正常と対比させなくてはならず,力動的心理学的立場に立って何を正常とみ,何を異常とみるかはきわめて微妙な問題を含んでいるので,この用語は次第に用いられなくなっている。

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デジタル大辞泉の解説

夢や催眠状態など、正常人における例外的心理状態や、精神異常者の心理について、その仕組みや発生機構を解明しようとする心理学の一部門。精神医学と重なり合う部分が多い。

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百科事典マイペディアの解説

異常な心理現象や病的な心理状態のほか,夢や催眠などを対象とする心理学。英語ではabnormal psychology。方法からいえば一般心理学と変わらないが,対象からいえば精神病理学Psychopathologieと重なり,したがって精神医学の研究と密接な関係をもっている。異常心理学の研究の主要な流れには,精神病理学的な疾病分類を基礎にする研究,フロイトとする精神分析学派の原因論的研究,幻覚妄想(もうそう)などの症状の精細な記述を基礎にする研究などがある。

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世界大百科事典 第2版の解説

異常な心理現象,病的な心理状態,あるいは夢,催眠などを対象とする心理学の一分野。異常心理学という言葉は,最初リボ以来伝統的に異常心理を研究する心理学者の多かったフランスにおいて用いられたものである。リボは,1888年コレージュ・・フランスに異常心理学psychologie pathologiqueの講座が設けられるとともに,その専任者となっている。これに対しドイツでは,精神異常(異常心理)の研究はもっぱら精神医学者の手によってなされ,精神病理学Psychopathologieという表現が用いられてきている。

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大辞林 第三版の解説

夢・催眠状態などにみられる異常な心理状態や、精神障害者の心理を解明しようとする心理学の一部門。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

人間の行動、体験の異常を記述し、その構造と発生の仕組みを研究する心理学の一分野である。

歴史と問題

歴史的にみると、神経症、精神障害などの症状を主として研究する精神病理学のことをさしていた。したがって異常心理学の研究は多くの精神医学者の研究業績を土台としていることも事実である。とくにクレペリン、ブロイラー、ヤスパースらの研究はこの分野に大きな影響を与えた。しかし「精神異常」の研究という精神病理学から、さらに広く異常心理学としての研究をする学者もしだいに多くなってきた。その始まりはフランスのジャネ、ブロンデルC. Blondel(1876―1939)らの催眠による異常心理の解明からである。その流れをくむフロイトのヒステリー研究から発展した無意識の概念が提示され、この分野に新しい方向を与えることになった。さらにアメリカにおける臨床心理学者の台頭によって、異常心理学が著しく拡大、発展するに至った。
 それは単に異常者の心理を研究することではなく、それによって正常者(健康な人間)の心理を解明できることが比較心理学の立場から考えられた。またフロイトの防衛機制のように異常・正常の区別なくみられるメカニズムもわかってきた。そのうえ、心理学臨床の治療に理論的基礎を与えるという意義もある。アメリカの心理学の著しい進歩によって、臨床分野ばかりでなく、実験心理学者や社会心理学者が異常心理研究に参加するようになり、異常心理学の形式、内容ともに急変してきている。アメリカの心理学者サラソンI. G. Sarason(1929― )の『異常心理学』(1976)によると、次のような定義が述べられている。「異常心理学は伝統的にわれわれが個人的不適応とよんでいる人間の機能不全や錯誤のタイプを研究するものである」。つまり、精神医学者が関心をもっている神経症、精神病、問題行動に限定しないで、広く不適応行動の科学とみようとしているのである。この意味は社会的枠組みのなかでとらえられる問題行動をも含めようとするもので、人種的偏見から生じているアメリカ社会の「問題」に光をあてようとした。[本明 寛]

異常と正常

異常という概念については、異常心理学の発展の途上で種々論議されてきた。第一に、異常心理学は個人を問題にする。社会現象としても、自然現象としても異常がある。戦争、不況、病気の流行、災害などがそれである。第二に、正常と異常を別個のものとみない。むしろ、正常から異常へは連続しているものとみる。これらを截然(せつぜん)と区別する基準はない。サラソンは、不適応行動は逸脱行動であるが、逸脱行動がかならず不適応行動であるかどうかは次の点から考えられるという。(1)統計的基準 1日コーヒーを25杯も飲む人は逸脱している。しかし、並外れた運動技能をもつ人も量的な逸脱者といえる。(2)社会的基準 遊び型非行は本人の意識面には罪悪感はないが、社会的基準から逸脱している。(3)個人的基準 専門家の判断のように、一般の人とは関係なく独自の判断を下すこと。これらのどの基準をもってしても逸脱といえるのだから、「不適応」といってよいかどうか、意味をよく確かめる必要があろう。[本明 寛]

研究対象

従来からの研究分野としては、精神障害、異常性格(人格)、適応障害があげられる。その重みの置き方は、精神医学者と心理学者の間に差がある。また新しい立場では、異常心理がどのように発生してくるかについてのメカニズムを、主たる研究とする学者も少なくない。サラソンは不適応行動の三つのタイプをあげている。すなわち、(1)個人的不適応、(2)犯罪と非行、(3)社会システムにおける不適応、がそれである。個人的不適応というのは、入院によって専門家の救助を必要としているものであり、慢性的な精神病がその代表といえる。犯罪と非行の問題は、都市化の進行とともに各国とも大きな関心を払っているもので、とくに年少期非行が、学校や家庭の問題として高い関心をもたれてきている。最後の社会システムにおける不適応は、社会経済的貧困、社会的地位の不安定などから生じるものである。スラム街の少年たちのように勉強しようという向上心を失ったり、学校の勉強をいやがるといったような問題がその例としてあげられる。このような問題は地域社会に原因があるが、年少期の発達を著しく阻害する。
 つまり、これは異常心理の発生が不安、恐れ、劣等感、疎外感などから、それが人間の自己コントロールを失わせるほど強力になって生じるという考え方をとっている。しかしそれに対して精神分析学では、防衛機制が作動して、その異常の症状に特異性を与えるという。最近では実存分析、行動療法、交流分析などが、それぞれの立場で異常心理のメカニズム解明と解釈を行っている。[本明 寛]
『村上仁著『異常心理学』(1979・岩波書店)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 正常人の例外的心理状態および精神異常者の心理状態を研究対象とする心理学。

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最新 心理学事典の解説

異常行動の原因探究を主要課題とする心理学の一分野。異常心理学の主要テーマとして,異常行動abnormal behaviorとは何かを定義する際の基準の問題がある。これまで提案されてきた基準としては次のようなものがある。第1は「出現頻度の低さ」で,出現頻度の分布を示す正規曲線normal curveの両端部に位置し,全体の平均から逸脱している状態を異常とみなす。第2は「規範の侵害」で,社会規範を侵害しているか,もしくは人びとを脅やかし不安にさせている場合を異常とみなす。第3は「本人の苦悩」で,なんらかの状態を経験している人が多大な苦悩や心的苦痛を感じている場合,それを異常とみなす。第4は「能力低下と機能不全」で,生活の場で期待される行動や役割を果たせなくなっている状態を異常とみなす。第5は「予測不可能性」で,環境からの刺激に対して通常は予想がつかない反応をする場合に異常とみなす。異常行動を,これらの基準のうちの一つだけで定義するのは不十分であり,通常は複数の基準を参考にして判断される。

 異常行動がどのように形成されたのかという原因論も異常心理学の重要なテーマである。歴史的に見るならば,古代では異常行動は,悪魔のような邪悪な存在が人間を支配しているという悪霊学demonologyが信じられていた。それに対しギリシアのヒポクラテスHippocratesは,狂気を躁病,うつ病,精神錯乱に分類し,それを脳の異常とみなす身体因論somatogenesisを提唱した。

 近代に至り,異常行動に関する二つの大きな学問的系譜が形成された。一つは身体因論から発展した精神医学である。クレペリンKraepelin,E.は,身体因論に基づき精神病理学psychopathologyに発展させた。いま一つは,異常行動を心的機能の不全によるとする心因論psychogenesisに基づく臨床心理学である。フロイトFreud,S.は,悪霊学の系譜に連なる催眠術の影響を受けて精神分析療法を提唱した。その後,行動療法,クライエント中心療法,認知療法,家族療法などが提案され,いずれも異常行動の原因論を提示した。これらが異常心理学を構成する初期の理論モデルとなった。

 各心理療法の原因論は以下のとおりである。精神分析療法では,乳幼児期の体験で意識に統合されなかった事柄が無意識に抑圧された結果,心的葛藤が生じること,分析心理学では,意識と無意識のバランスが崩れ,相補性が保てなくなること,クライエント中心療法では,自己実現という本来の傾向に従わないでいること,行動療法では,特定状況において不適応行動が学習の原理に従って学習されてしまったこと,認知療法では,認知の歪みによって情報処理が行なわれること,家族療法では,家族システムの問題が個人に現われること,をそれぞれ原因とした。

 現在では,身体因論と心因論を区別するのではなく,生理的要因,心理的要因,環境的要因が相互に関連し合って異常行動が成立するとする素因-ストレス・モデルdiathesis-stress modelが,異常心理学の主要モデルとなっている。これは,問題や障害を生じやすい体質である素因と,人を悩ます環境ストレスの相互作用によって異常行動が引き起こされるとの前提に立つものである。近年では,素因-ストレス・モデルに基づく認知行動論cognitive behavioral theoryの立場から,さまざまな異常行動の原因モデルが具体的に提案されている。 →家族療法 →クライエント中心療法 →精神分析療法
〔下山 晴彦〕

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