改訂新版 世界大百科事典 「半導体記憶装置」の意味・わかりやすい解説
半導体記憶装置 (はんどうたいきおくそうち)
semiconductor memory
半導体集積回路で記録セルを構成した記憶装置のことで,ICメモリーとかLSIメモリーとも呼ばれる。主記憶装置の主流技術で,バッファーメモリー,高速制御用記憶装置などにも使用される。アクセル方式が等速呼出し(ランダムアクセス)で高速動作ができるのが最大の特徴である。書込み特性を犠牲にして低廉化,高速化,不揮発性化をはかり,読出し専用にしたものをリードオンリーメモリー(ROM)と呼び,固定化なプログラムやデータなどを記憶させる。読み書き動作がほぼ同じ速度で対等にできる半導体記憶装置は一般にROMに対してRAMと呼ばれる。RAMには動的記憶装置(ダイナミックメモリー)と静的記憶装置(スタティクメモリー)がある。動的半導体記憶装置はDRAMと略称され,定常状態では情報保持能力のない素子,たとえばMOSトランジスターの微小な寄生静電容量CS(1~5×10⁻14F)に電荷の形で情報を蓄え,時間の経過とともに失われる電荷を周期的な再書込み(リフレッシュ)によって保持するものである。現在もっとも広く使われている1トランジスター形のDRAMのセル回路を図1に,その平面図と断面構造模式図を図2に示す。これはセル回路がたいへん簡単なので大集積化しやすく,数mm角のシリコンチップ上に256キロビット分が集積されたアクセス時間が300~100nsのものが1985年現在の標準品である。しかし過去十数年間は,3年ごとにほぼ4倍の高密度化が進んでいるので,今後ますます高速化,大集積化されるであろう。静的記憶装置はSRAMと略称され,記憶セルはフリップフロップ回路で構成されるのが一般的である。セル自身が定常状態で情報保持能力をもつので,リフレッシュ関連回路と制御が不要でたいへん使いやすい。このためとくにパーソナルコンピューター,マイクロコンピューターなどの主記憶に多用される。MOS電界効果トランジスターで構成したそのセル回路の例を図3に示す。SRAMは図1に示したDRAMに比較して素子数が多くなるので高集積化がやや困難となり,ほぼ同面積のシリコンチップ上に1/4程度の記憶密度となる。したがって高価にならざるをえない。高速度を要求されるものは,バイポーラートランジスターで構成され,アクセス時間が16~1キロビット集積化されたもので5~1nsのものも商品化されている。またヒ化ガリウムを使った集積回路メモリーの研究も進んでいる。バイポーラー素子を用いたものは高速であるが消費電力を多くなる欠点がある。図3の回路をC-MOSで構成すれば,速度はバイポーラー素子を使用したものより約1桁遅くなるが,消費電力を大幅に減少させることができるので,SRAMはC-MOS化されるものが多い。
ROMも目的や要求速度によってバイポーラー素子やMOS素子のデバイス技術が使いわけられている。またデバイスの製造過程で記憶情報が作り込まれるマスクROMと,部品の製造終了後にユーザーが目的に応じた情報を,RAMと異なる,特別な手段で個々に書き込むプログラマブルなPROMとがある。PROMはさらに図4に示すように種々のものが開発されている。マスクROMは同じ固定的情報を大量に必要とする漢字パターン発生メモリーなどに適する。消去不可能PROMにはマトリックスゲートをヒューズ溶断形や接合破壊形で書き込むものが主流である。EPROMは記憶内容書換え時の消去を紫外線照射で行うことのできるFAMOS(floating gate avalanche injection MOSの略)が主流で,マイクロプロセッサーのプログラムメモリーに多く使用されている。EEPROMはMNOS(metal-nitride-oxide-semiconductorの略)などが開発され,今後が期待されている。
執筆者:川又 晃
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報