南極大陸から北に延び,ドレーク海峡を隔てて南アメリカ大陸に対している半島。ほぼ西経65°~70°の間にあり,先端は南緯63°13′で南極大陸中もっとも北に位置する。従来アメリカはパーマーPalmer半島,イギリスはグレアム・ランドGraham Landと称していたが,1964年に両国は南極半島と称することに合意した。さらに南緯69°付近から北をグレアム・ランド,南部の南緯75°付近までをパーマー・ランドと称している。この半島はアンデス山脈からサウス・ジョージア等のスコシア島弧を経て,西南極大陸に連なる造山帯の一部をなし,中生代末期に形成された。ほぼ全域が氷河に覆われていて標高約2000mに達する。東岸にはラルセン棚氷が発達し,西岸にはビスコー諸島,アデレード島など多くの島がある。年平均気温は北部で-5℃,南部で-20℃,北部では夏に10℃以上に達することもある。沿岸には露岩地帯も多く,2種の顕花植物が自生している南極で唯一の場所である。1820年代にアザラシ狩猟船が半島先端部を訪れてから人間活動が盛んとなり,アルゼンチン,チリ,イギリスが領土権を主張し紛争地であったが,現在は南極条約により領土権は凍結されている。1940年代からこれらの国は海岸や沿岸の島に観測所を設けて調査を行っている。南極半島一帯は南極で最も観測基地が多く,なかには領土権主張の意図が見られるものもある。南アメリカから近いため,夏季には観光船が訪れ,ときには基地の観測活動に支障を与えたり,動植物の保護保全に影響が出たりしている。
執筆者:楠 宏
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南極大陸から南アメリカの先端に向かって北に延びている半島。先端は南緯63度13分で、南極大陸中でもっとも北に位置する。南緯69度付近から北は幅約100キロメートル、以南は約200キロメートルで、ほぼ全域が氷河に覆われ、標高約2000メートルに達する。1820年代にアザラシ捕獲船などから先端付近が視認されており、アメリカはパーマー半島Palmer Peninsula、イギリスはグレアム・ランドGraham Landと称していた。1964年に両国は南極半島とよぶことに合意し、そのなかの南緯69度付近から北をグレアム・ランド、南方南緯75度付近までをパーマー・ランドと称している。南極半島地域はイギリス、アルゼンチン、チリが領土権を主張しており、紛争があったが、現在は南極条約により領土権主張は凍結されている。
半島の東岸にはラルセン棚氷(たなごおり)が張り出し、ウェッデル海の密群氷域に続く。西岸には多くの島がある。夏には接岸も可能な地点が多い。年平均気温は北部で零下5℃、南部で零下20℃、北部では夏に10℃以上に達することもあり、南極では比較的しのぎやすい地域である。沿岸には露岩地帯も多く、動植物も南極では比較的豊富で、南極で唯一の顕花植物2種(ナンキョクコメススキ、ナンキョクミドリナデシコ)が自生する。半島や沖合いの島には、南極条約による動植物の特別保護地区が多い。南極半島は南極大陸中でも観測基地の多い地域で、越冬観測がアルゼンチン(3基地)、イギリス(1)、チリ(1)、アメリカ(1)によって行われている。基地の多くは海岸や島の上にある。アルゼンチンの基地のなかには滑走路をもつものもあり、冬季でも航空機の発着が可能である。夏季には観光船が多く訪れ、職業写真家や商業映画の撮影もなされている。ヨットで基地を訪れる者や、登山のためにアルゼンチン基地で越冬する例も増えている。
[楠 宏]
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