日本大百科全書(ニッポニカ) 「原始一神教」の意味・わかりやすい解説
原始一神教
げんしいっしんきょう
人類文化発達史の初期段階にみられたと想定される一神教(唯一、絶対の神格を認める信仰)、また、現在の「未開社会」にみられる一神教。あらゆる文化は低次から高次へと直線的に進化すると考える19世紀の文化進化論では、宗教の起源をアニミズム、アニマティズム、呪術(じゅじゅつ)などに求め、また一神教は多神教より進んだものとみなしたが、現存する「未開社会」を調べると、アフリカのサン(ブッシュマン)、マレー半島のセマン、オーストラリア先住民など、もっとも原始的とされる狩猟採集民の間に、しばしば最高神の観念がみられる。このことを最初に指摘したのはA・ラングで、キリスト教などの高度に進化した宗教の一神教と区別する意味で原始一神教とよぶが、これはアニミズムや精霊崇拝から進化したものではなく、むしろ宗教の原初形態であると主張した。これを継承し、発展させたのはW・シュミットで、彼は、世界の諸文化をいくつかの文化圏に分け、それらを人類文化史の各段階に位置づける試みのなかで原始一神教Urmonotheismusをとらえた。シュミットによれば、もっとも古い段階に位置づけうる文化圏の民族に、万物の創造主で道徳的秩序の制定者、天神、父なる神である至高神に対する信仰がみられ、この原始一神教が、文化が発展するにつれて多様化していった、と論じた。「未開社会」にみられる一神教を、文化の進化や段階と結び付けてとらえる考え方は、のちに多くの批判を受け、また、原始一神教ということば自体も、「未開社会」の一神教を低級とみなす意味を含んでいるため、今日ではあまり用いられなくなっている。
[板橋作美]