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文化圏 ぶんかけんKulturkreise

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

文化圏
ぶんかけん
Kulturkreise

複合体としての一つの文化が分布する範囲。ドイツ,オーストリアの地理学者,民族学者が発展させた学説。 F.ラッツェル,L.フロベニウス,F.グレーブナーらが発展させ,W.シュミットにより完成。文化事象の地理的分布を調査し,質規準と量規準の両面から伝播もしくは共通起源を考察する (→伝播論 ) 。さらに2つの文化が接触または交錯してできる混合形態あるいは接触形態を調査して,歴史を再構成する (→文化変容 ) 。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

文化圏
ぶんかけん

ドイツ語のKulturkreisの訳語で、等質的な文化が分布している地域をさす。文化圏という用語の使い方には、一般的な用法と、民族学の術語としての特殊な用法とがある。一般的な用法とは、イスラム文化圏、ヘレニズム文化圏というように、イスラム教が分布していることによって、多くの風俗・習慣などに一致がみられる地域、あるいは、かつてのヘレニズム的な文化の分布範囲をさしており、民族学の術語でいうと文化領域の概念に近い。これに対して民族学の専門用語としての文化圏は、19世紀末から20世紀初めにかけてのドイツ・オーストリアの歴史民族学において、特殊な意味内容において用いられたものであって、文化圏の概念を用いて、人類の初期文化史の再構成を行ったために、この学派の説を文化圏説とよぶことも多かったほどである。[大林太良]

文化圏と文化層

ドイツ・オーストリアの歴史民族学で用いられた文化圏の概念は、一定の地域に特徴的な文化要素の複合体をさしており、この複合体は基本的にはこの地域にだけみいだされるものであり、また住民、道具、宗教観念、親族組織など、文化にとって必須(ひっす)の範疇(はんちゅう)をすべて含んでいるものである。このような文化圏の概念は1898年にフロベニウスによって導入され、20世紀初めにグレープナーによって精緻(せいち)にされ、さらにシュミットによって世界的な規模における文化圏体系に押し進められた。このような文化圏の用法の一例として、グレープナーが1904年に初めて提案し、09年に修正提案したオセアニアにおける文化圏をあげよう。グレープナーは、基本的にはオーストラリア文化、トーテミズム文化、母権双分制文化、メラネシア文化、ポリネシア文化という五つの文化複合がオセアニアに存在し、これらの文化複合は、空間的には、たとえばオーストラリア文化はオーストラリア、ポリネシア文化はポリネシアというように、それぞれ異なる分布領域をもつことから文化圏としてとらえることができる。他方においては、これらの文化複合は先に述べた順序でオセアニアに進入し登場したものであって、古オーストラリア文化は、オセアニアにおける最古の文化層であり、ポリネシア文化はもっとも新しい文化層であるというように、時間的にみれば文化層である。そして一つの文化圏(文化層)は、たとえばトーテミズム文化は父系制、トーテミズム、太陽神話、台上葬、成年式、投槍(とうそう)器、円形小屋、陰茎鞘(さや)などの多くの要素からなる複合体である。シュミットは、グレープナーがオセアニアで設定した文化圏の体系を世界的に拡大したが、そのとき二つの仕方でこれを整理した。一つは、民族学的に再構成しうるもっとも古い文化形態としての原文化、それから発展した次の段階としての第一次文化(これは後で述べるように三つに分かれる)、さらに複数の第一次文化が混合しあってできた第二次文化と第三次文化という、いわば段階づけである。もう一つは、第一次諸文化をトーテミズム大狩猟文化、母権農耕文化、父権牧畜文化というように、親族組織と経済形態との組合せという統一的な命名法を用いたことである。シュミットの文化圏体系は形式的には整っていたが、現実から離れ、文化圏説の没落の大きな原因となった。このような動向に対して反動というべきものに、1930年におけるドイツのバウマンのアフリカにおける文化圏設定があり、地域をアフリカに限り、自然環境、人種、言語などの要因を考慮に入れた具体性の高いものであった。
 文化圏という概念には一定の有効性があり、この概念を用いての文化史研究も、アフリカとかオセアニアのような限られた地域については、注目すべき結果を生み出した。しかし1950年代後半からは、かつての文化圏説の連想を避けるため、民族学では文化圏という語はほとんど用いられず、文化複合のような中立的概念を用いている。[大林太良]
『W・シュミット、W・コッパース著、大野俊一訳『民族と文化』上下(1957、70・河出書房) ▽W・シュミット著、山田隆治訳『母権』(1962・平凡社) ▽蒲生正男編『現代文化人類学のエッセンス』(1978・ぺりかん社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典内の文化圏の言及

【伝播】より

…これにはさまざまな学派があり,その極端なものとしては,古代エジプトに世界の文明の唯一の源泉があり,ここから太陽巨石文化が世界中に広がっていったとするイギリスのスミスGrafton Elliot SmithやペリーWilliam James Perryの説がある(ヘリオセントリズムHeliocentrism)。ドイツやオーストリアのいわゆる文化圏説もしばしば伝播主義と呼ばれる。イギリスの伝播主義ほど極端でないが,少数の文化圏(文化複合)の伝播,接触を重要視した点に特徴がある。…

【文化圏説】より

…しかし20世紀初めに各国で,L.H.モーガンの《古代社会》などにみられる空想的思弁を克服し,民族誌的事実の分布状態などの客観的な根拠に基づいて着実に文化や民族の歴史を再構成しようという動きが始まった。文化圏説はその一つの表れであって,文化圏説という名称は,この学派が文化圏の概念を重要な方法論的な装備の一つとしたことによる。文化圏Kulturkreisという用語は,以前から一般的な概念として存在していたが,民族学の専門用語として1898年にL.フロベニウスが初めて導入した。…

※「文化圏」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

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