広義では、広く霊的存在または超自然的存在一般、すなわち神、精霊、祖霊、霊魂、死霊、霊鬼、妖怪(ようかい)などの崇拝を意味するから、アニミズムの概念に近いのに対して、狭義には、さまざまな霊的存在とは区別された諸精霊spiritsを崇(あが)め敬うことをいう。したがって厳密には、精霊崇拝はアニミズムの一形態である。しかし実際には民族、地域によってその意味する範囲に相当の差異がある。
精霊はあらゆる生物、無生物(人工物、自然物)に宿り、その宿り場を自由に出入りしうる、または宿り場がなく空中を浮遊しているような、目に見えない人格的存在とみなされることが多い。概して上級精霊と下級精霊とがあり、前者は神に近い存在であるのに対して、後者はその眷属(けんぞく)または補助霊ないし神に対立する存在とみられることが多い。シベリアの狩猟民チュクチ人の精霊ケレットkeletは、すべての河川、森林、湖沼や各種動物に生命を与える支配霊または所有霊とみなされる。ケレットのなかにはすみかをもたず、絶えず徘徊(はいかい)して犠牲者を探すものもある。彼らの数はすこぶる多く、いちいち名称で区別することができないほどである。チュクチ人は食物の確保のため各種動物霊を崇拝するとともに、上級精霊の力を借りて各種悪霊を排除する。わが国におけるアイヌの熊(くま)送りは、は動物霊の崇拝で、奥能登(のと)のアエノコト行事は穀霊の崇拝であるとみられる。
[佐々木宏幹]
『岩田慶治著『草木虫魚の人類学』(1973・淡交社)』▽『吉田禎吾著『宗教人類学』(1984・東京大学出版会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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