日本大百科全書(ニッポニカ) 「セマン」の意味・わかりやすい解説
セマン
せまん
Semang
マレー半島北部山岳地帯の山麓(さんろく)部に住む狩猟採集民。マレーシアの西部でセマン、東部でパンガンとよばれていたが、マレーシア政府は、人種用語であるネグリトを採用している。マレーシア側で3000人弱(1990)、タイ側で推定200人の人口を有する。六つの方言グループに区別され、それぞれが一定の領域の中で生活している。南方の民族集団セノイと近縁の北部アスリ語を話す。20世紀初めまでは弓矢を使用していたが、現在はセノイから伝来した吹き矢が唯一の狩猟具となっている。吹き矢によってサル、リスなどの樹上性動物を狩猟すると同時に、カメ、トカゲ、ネズミなどの小動物をとることもセマンの食料として重要である。しかし、食物の大部分は採集で得られるヤムイモ、果実類の植物性である。また、トウや樹脂などジャングル産物を交易することにより、農作物、たばこ、その他生活用品を入手している。マレーシア政府の定着化政策により、農業を開始したグループも多い。セノイ同様、双系の親族組織をもち、大部分が双処婚である。居住単位は、5から10の核家族からなるキャンプである。各家族は、木の枝とヤシの葉できわめて簡単な差し掛け小屋をつくる。キャンプの構成家族は、一組の老夫婦と結婚した息子や娘という拡大家族が一般的であるが、東部ネグリトでは流動的で、きわめて移動性の高い生活を送る。
[口蔵幸雄]