日本大百科全書(ニッポニカ) 「原生的労働関係」の意味・わかりやすい解説
原生的労働関係
げんせいてきろうどうかんけい
urwüchsiges Arbeitsverhältnis ドイツ語
産業革命の進行過程に現出した過渡期の労使関係で、労働組合運動の発展と工場法の確立によってしだいに克服された。この時期、機械制大工業の確立によって圧倒的に優位な力関係にたった資本は、なにものにも拘束されずに、劣悪な労働条件の下で長時間にわたって労働者をほしいままに酷使した。剰余価値の追求を至上命令とする資本にとって、可能な限り労働日を延長することは、そのための重要な手段の一つである。機械体系の確立は労働者の熟練や筋力を不要化することによって、児童や婦人の大規模な雇用を可能にし、熟練労働者による初期労働組合運動に大きな打撃を与えた。また、もはや熟練に依存しない機械体系は、労働者の精神的・肉体的限界を無視して工場を長時間操業することを可能にした。他方、機械や工場の建物への巨額な資本投下は、稼動率を引き上げることによって、早期に固定資本を回収しようとする資本の衝動を強めた。このため、労働者、とりわけ児童や婦人労働者には昼夜の区別なく無制限な長時間労働が強制されることになり、その精神的・肉体的荒廃が著しく進行した。
このような原生的労働関係は、本格的な労働組合運動と工場法の確立によってしだいに克服されるが、第二次世界大戦前の日本のように、労働組合運動の発展が弱く、工場法がきわめて低い水準にある場合においては、前期的な支配と結合しつつ、かなり長期にわたって存続した。
[湯浅良雄]
『大河内一男著『社会政策の基本問題』(1952・日本評論社)』▽『隅谷三喜男著『日本賃労働史論』(1955・東京大学出版会)』