原本の上に紙をのせ、透写(すきうつ)しによって筆跡を写す模写方法で、中国・唐代(7~10世紀)に発達した。文字の大きさ、形、運筆の速度、緩急、筆圧、そして墨色などを原本どおりに丹念に書き写すため、肉筆(にくひつ)と区別がつかないほど精妙なものもある。「双鉤」は文字の輪郭を細い墨の線で写し取ることで、わが国ではこれを籠字(かごじ)という。「填墨」は籠字の中を墨で塗りつぶすこと。わが国伝存の遺品としては、奈良時代に将来された中国・東晋(とうしん)の王羲之(おうぎし)の筆跡の模写『喪乱帖(そうらんじょう)』(宮内庁)、『孔侍中帖(こうじちゅうじょう)』(東京、前田育徳会)がよく知られる。
[名児耶明]
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