改訂新版 世界大百科事典 「吉様参由縁音信」の意味・わかりやすい解説
吉様参由縁音信 (きちさままいるゆかりのおとずれ)
歌舞伎狂言。世話物。5幕。別名題《小堀政談天人娘(こぼりせいだんてんにんむすめ)》。通称《湯灌場吉三(ゆかんばきちさ)》《小堀政談》《天人香》。河竹黙阿弥作。1869年(明治2)7月東京中村座初演。配役は湯灌場吉三・腰元お杉・土左衛門伝吉を5世尾上菊五郎,愛妾おみつ実は湯島のおかん・天人お七を6世坂東三津五郎,弁秀・八百屋久四郎を中村仲太郎等。乾坤坊良斎(けんこんぼうりようさい)の講釈《小堀騒動》に八百屋お七をからめた脚色。小堀家の御家騒動で,嫡子左門之助は座敷牢へ監禁され,毒殺されるところを腰元お杉の手引きで救われ,駒込円城寺へかくまわれる。お杉はそれを責められて自害,死骸は弁秀と湯灌場買の吉三の手で片づけられる。八百屋久四郎の娘天人お七は,一家類焼して円城寺に預けられ,左門之助を見初める。だが,百両の借金のため,お七は釜屋武兵衛に嫁がせられることになり,死のうとはかるが,兄の吉三に救われる。吉三は釜屋へ盗みに入り,弁秀と争って水道橋で殺害する。お七は左門之助会いたさに,木戸を開く櫓太鼓を打って捕らえられる。吉三は情婦おかんを殺そうとし,おかんも兄の仇を討とうとしてともに死ぬ。1919年東京市村座で吉三を6世菊五郎,弁秀を初世吉右衛門で復活上演された。以来,小堀騒動のくだりは削られ,吉三と弁秀に焦点をあてての上演となっている。堕落坊主弁秀の性格の面白さが一つの見せどころとなっているが,これは吉右衛門の工夫によるところが大きい。
→お七吉三物
執筆者:小池 章太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報