日本大百科全書(ニッポニカ) 「国民貸借対照表」の意味・わかりやすい解説
国民貸借対照表
こくみんたいしゃくたいしょうひょう
balance-sheet for the nation
国民経済の生産活動の基盤となっている生産設備、資金などの存在量(ストック)をある一定時点において計測し、企業会計における複式簿記の表現形式に倣って国民経済全体について作成した資産・負債の対照勘定表。国民貸借対照表の作成は、その推計作業が困難なこともあって、国民経済に関する計算体系のなかでもっとも遅れていたが、1968年に国際連合によって新しい国民経済計算の基準(新SNA)が公表されてから、わが国でもその計算体系への移行の一環として国民貸借対照表の整備が行われることになった。
国民貸借対照表の仕組みは次のとおりである。期首の貸借対照表に計上された資産・負債に基づいて当期の経済活動が開始され、当期中の活動はフローの勘定としての国民所得勘定、産業連関表、資金循環表、国際収支表の4勘定に記載される。そして、その経済活動によって増加された資産・負債の額が期首の貸借対照表に加算されて期末の貸借対照表を形成する。それが次期の期首貸借対照表となって新たな経済循環が開始されることになる。国民経済計算が「もの」と「かね」の両面から経済活動を把握する体系であるところから、そのストック面を計上する貸借対照表においてもその両面が扱われる。すなわち、その項目には、実物資産として、機械設備や建物などの純固定資産、土地や天然資源などの再生産不可能有形資産、それに製品や原材料の在庫がある。金融資産は、現金・預金、債券、貸出金、株式などに分けられて計上される。この貸借対照表は、非金融法人企業、金融機関、一般政府、家計のそれぞれについて作成され(部門別貸借対照表)、これらの4勘定を統合することによって国民貸借対照表が得られる。借方の資産合計額から貸方の負債と株式の合計額を差し引いたものが貸方の最後に示される正味資産であり、国民貸借対照表についていえば、それが「国富」を形成する。
[高島 忠]