デジタル大辞泉 「産業連関表」の意味・読み・例文・類語
さんぎょう‐れんかんひょう〔サンゲフレンクワンヘウ〕【産業連関表】
[補説]日本では、上記のほかに、経済産業省が地域産業連関表・延長産業連関表・国際産業連関表を作成している。延長産業関連表は、産業連関表の中間年を補完するため、毎年最新の統計情報を用いて推計するもの。また、各都道府県・市町村でも、それぞれ産業関連表を作成・公表している。
国民所得統計とならんで,一国の経済構造をとらえるために,さまざまな一次統計を加工し,体系化した二次統計の一種。国民所得統計が経済の動きをいわば通時的に観測するのに対し,産業連関表は経済の共時的構造をみようとするものといえる。経済統計としての国民所得統計が,経済理論の側でのマクロ経済学の発展と手をたずさえ,ときにそれを支え,また逆にそこから刺激をうけつつ発展してきたのに対して,産業連関表は,少なくとも当初においては経済学における一般均衡論の具体的適用のための資料として構想されたものである。
近代社会の著しい特徴に,経済活動の相互依存性がある。生産者・消費者などの個別経済単位の活動は独立に営まれるのではなく,財・サービスの取引を通じて相互に連関し合う。経済活動の因果序列は一方向に流れるのではなく,循環的に規定し合うのである。そのため経済の一隅で生じた変化が経済全体に波及する過程ははなはだ複雑となり,単純な因果分析の手におえない。この相互依存性に注目して経済分析の基本的枠組みを構想したのは,19世紀フランスの経済学者L.ワルラスであった。彼は一国の経済活動を一組の連立方程式として記述し,この方程式体系の数学的構造を分析することによって,経済の本質に迫ろうと試みた。この構想はのちに一般均衡論として発展し,理論経済学の重要な一分野となる。しかし一般均衡論自体はきわめて抽象的なモデル分析であって,経済の基本的しくみを理解するための適切な枠組みは用意しえても,この分析から直ちに経済の現実の動きを記述・予測し,経済政策の立案に有益な定量的情報を引き出すことは望むべくもない。経済現象の相互依存性という一般均衡論の基本的着想は維持しつつ,現状分析に適用可能な形にモデルを特定化し,現実経済の定量分析に役立てようと試みたのは,W.W.レオンチエフである。この仕事は1930年代の初期に始まり,およそ10年を経て40年代までにその基本的枠組みは完成する。
レオンチエフは経済を記述する連立方程式体系を操作可能=計算可能な形式に,具体的にいえば,連立一次方程式として定式化した。もちろん,モデルをこのように限定することによって,一般均衡論が本来備えていたある種の普遍性は失われざるをえない。しかし,彼は有用で深い定量的知見を得るためには,これはやむをえないコストであると考えたのである。彼は,連立一次方程式を具体的・定量的に規定して,数値解法を可能にするため,基礎資料を収集し,それを体系化することから始めた。1919年と29年のアメリカ経済を対象とし,両年における経済単位相互間の取引をすべて記述し,アメリカ経済の活動全体のいわば鳥瞰(ちようかん)図を作成しようと試みたのである。もとより経済単位を個々の生産者や消費者にまで細分化したのでは,膨大なすべての取引を記述しきれる道理はなく,資料を操作可能なレベルにとどめるためには,なんらかの集計が必要であった。彼は集計のための経済単位を産業レベルに設定したが,これによって作業全体が操作可能の範囲にとどまると同時に,その経済のもつ技術的特徴が産業ごとの投入構造の差異として鮮明に浮かび上がるようになった。こうして得られた鳥瞰図が,歴史上最初の産業連関表にほかならず,それはすでに述べたように,第1次大戦後のアメリカ経済の共時的構造を明らかにするものであった。産業連関表はのちにみるように,一産業に注目すればその産業のすべての投入と産出を記述しているから,投入産出表input-output tableとも称される。またレオンチエフ表ともいう。日本語では慣行的に産業連関表と称されることが多いが,レオンチエフのもともとの研究では投入産出表という表現がとられている。
産業連関表それ自体は,経済のある一時点の横断面を記述した統計表にすぎない。レオンチエフの着想の卓抜さは,近代産業技術の特徴のひとつである投入量の産出量に対する正比例性(規模に関する収穫不変)を積極的に導入することによって,単なる記述モデルを分析モデルに組み替えたところに求められる。すなわち,この仮定の導入によって産業連関表は連立一次方程式と読み替えられ,これによって,その経済のおかれている外的環境の変化が経済全体にどのように波及し,とりわけ各産業がどのように反応するかの定量分析が可能となった。産業連関表を基礎資料とするこの分析法は,産業連関論あるいは投入産出分析と呼ばれる。この分析法を実際に適用するためには,基礎資料としての産業連関表の整備はもとより必須であるが,それと同時に高速計算機の利用が可能でなくてはならない。実際レオンチエフのこの研究を可能とした背景のひとつに,当時彼の所属していたハーバード大学で最初の実用電子計算機が開発されつつあった事実を見逃すわけにはいかない。レオンチエフとその協力者は,この分析法を応用して,アメリカの貿易構造,軍縮の経済効果,公害規制の経済効果などについて,それまでの定説を覆す研究をつぎつぎに公表し,この方法の実証研究における有効性をいかんなく示した。他方,理論的基礎は,レオンチエフの開拓者的業績のあと,50年代までに多くの研究者により活動分析や線形計画法の応用としてほぼ完成された。その後60年代に行われた理論的拡充は,資本蓄積過程をこの理論に基づいて分析することを可能にした。さらに70年代には,レオンチエフ自身がすでに早くから注目していた事実,つまりこの理論と労働価値説との関連についての研究が著しく進展し,投入産出分析の視点からマルクス経済学を再検討する試みが行われた。
今日,産業連関表は世界の多くの国々で国民所得統計とならぶ基本的な公式統計の地位を占め,現状分析や政策策定に利用されている。アメリカ,ドイツ(旧,西ドイツ),フランス,日本等の西側先進諸国はもとより,発展途上国や社会主義圏諸国でも盛んに利用されている。このような状況は,西側で発達した他の経済分析手法,たとえばマクロ計量モデルにはみられない著しい特色であるが,これは,この方法がどの社会体制にも共通する技術的性質に着目して構成されていること,また,本来経済計画になじみやすい論理構造を備えていることを示している。産業連関表の作成には膨大な作業を必要とするため,現在では各国の政府機関や国際連合,ECなどの公的機関によって作成される。たとえばアメリカでは商務省が,ドイツでは連邦統計局が,フランスでは国立経済統計研究所がそれぞれ作表している。
日本への産業連関表の導入は比較的早く,すでに1951年に最初の表が通商産業省および経済企画庁によって作成された。その後,各省庁の協同作業として,55年以降5年おきに作表されることになった。5年ごとに作成されるこの表は基本表と呼ばれ,各種の既存基礎統計と,必要なかぎりにおいて独自に行う調査から得られた統計を積み上げ,加工して推計される。これらは膨大な作業を要するため,調査から公表まで数年を要するのが普通である。基本表の作成されない中間年については,補助資料を用いて基本表を外挿した延長表が毎年作成される。また以前は,産業連関表と国民所得統計はそれぞれ独自に推計されてきたが,78年以降両者は国民経済計算体系の中に整合的に位置づけられることとなった。日本の産業連関表は,産業分類の詳細性,推計値の精度,公表の定期性と速報性,さらに1960年以降ほぼ同一の表章形式,概念規定,定義等を踏襲してきたことから得られる通時的比較可能性等の基準から総合的に判断して,国際的にみてもきわめて高い水準にある。西側諸国についていえば,公表の定期性と速報性についてはフランスが例外的に優れているが,他の基準では日本に及ぶ国はなく,社会主義国については具体的数値をほとんど公表しないので比較の対象にならない。
表は,1980年産業連関表のひな型である。ここでは模式的にみるため3産業分類としてあるが,実際の表は60~70産業分類,最も詳細な表では400~500部門分類となっている。この表の最右欄と最下欄には各産業ごとに同一の数値が記入されているが,これはこの産業の生産額=販売額を示している。いまこの表の各欄の数値を横に読めば,各産業の生産物がどの産業にまたどのような目的で販売されたか,すなわち販路構成が明らかとなる。また縦に読めば,この生産を達成するために,原材料をどの産業からどれだけ,またどんな要素サービスをどれだけ購入したか,すなわち投入構造を知ることができる。
産業連関表は,通例一国全体を対象とするが,このほかに一国を数地域に細分して地域間の取引構造も同時に考慮した地域産業連関表,数ヵ国の産業連関表を相互に連結して貿易構造も同時に分析することを試みた国際連結産業連関表,また,排出汚染因子と除去活動を組み込んだ公害分析用産業連関表などもある。
執筆者:時子山 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
産業間において一定期間に行われた財やサービス取引を一つの行列表(マトリックス)に示した統計表。一国の経済構造を明らかにし、国民経済計算(SNA)を始めとして多くの経済統計調査にとって重要となる基本データになっている。また、ある産業で新たな需要が発生した場合に、他の産業にどのように生産が波及しているかという経済波及分析に用いられることも多い。
日本では、10府省庁の共同作業による産業連関表(全国表)を5年ごとに作成しているほか、以下の産業連関表が作成されている。地域産業連関表(経済産業省が5年ごとに作成)、都道府県・市産業連関表(都道府県・市がおおむね5年ごとに作成)、延長産業連関表(全国表をベンチマークとして直近の産業構造を推計したもので、経済産業省が毎年作成)、国際産業連関表(経済産業省やアジア経済研究所が作成)、各種分析用産業連関表(分析目的に応じて各機関が作成)などである。
ここでは全国表を例に産業連関表の構造とおもな統計表について説明する。
[飯塚信夫 2020年9月17日]
産業連関表の縦方向(列)には、ある産業(部門とよばれる)がどの部門からどれだけ原材料を購入(中間投入)し、どれだけ財やサービスを国内生産しているかが記述されている。国内生産額から中間投入を差し引いたものは粗付加価値とよばれ、賃金総額(雇用者所得)、企業の利益(営業余剰)などにそれぞれどれだけ分配されたかが示されている。この原材料や労働力などへの支払いの内訳(費用構成)を、産業連関表では投入inputとよんでいる。
一方、横方向(行)には、ある部門が生産した財やサービスを、どの部門が原材料として購入(中間需要)し、消費、投資、輸出などに振り向けられているか(最終需要)を記述している。こうした財やサービスは、輸入でまかなわれているものもあるので、行の右端の国内生産額は、中間需要と最終需要を合計して、輸入を差し引いたものとして算出される。部門ごとの行の右端の国内生産額と、列の下端の国内生産額は等しくなっている。各行で示されている、それぞれの部門で生産された財・サービスの販売先の内訳(販路構成)を、産業連関表では産出outputとよんでいる。
このように、投入と産出の構造を示していることから、産業連関表は投入産出表input-output table(I/O表)ともよばれる。
産業連関表は、取引基本表として提供されている。2019年(令和1)6月に公表された「2015年産業連関表」では、もっとも詳細な部門の分類として基本分類は(行)509部門×(列)391部門とした。この基本分類に基づき、活動内容が類似した分類を統合した、統合小分類(187分類)、統合中分類(107分類)および統合大分類(37分類)の取引基本表も提供している。
産業連関表は、取引基本表以外にも、経済分析に資することなどを目的に、さまざまな表を提供している。投入係数表は、ある部門において1単位の生産を行う際に必要とされる原材料等の単位を示したものである。逆行列係数表は、ある部門に対して新たな最終需要が1単位発生した場合に、当該部門の生産のために必要とされる(中間投入される)財・サービスの需要を通して、各部門の生産がどれだけ発生するかを示している。
2015年(平成27)産業連関表では、1955年(昭和30)の産業連関表の作成開始以来、初めて国内生産額が1000兆円を超えた(約1018兆円)。
[飯塚信夫 2020年9月17日]
社会で行われるさまざまな経済活動を、内容の共通する部門ごとに統合し、それらの部門間の相互関連として把握する試みは、18世紀の中ごろにフランスの重農主義経済学者F・ケネーによって行われ、その成果は『経済表』として発表された。しかしケネーは、この表を経済の社会的再生産過程を理論的に分析するための用具として用いるにとどまり、表について仮説的な数字例を置いたにすぎなかった。実際のデータによる産業連関表を初めて作成したのはアメリカの経済学者W・レオンチェフである。彼は、1919年と1929年のアメリカ経済について、その産業連関表を作成し、それらを用いてアメリカ経済の分析と予測に目覚ましい成果をあげた。そのため、この方法の有用性はアメリカをはじめ各国政府諸機関の注目するところとなった。とくに第二次世界大戦後は、欧米各国の政府機関によって産業連関表が作成され、国民経済の分析や政策策定に広く利用されてきた。
日本においても、1955年に初めて通商産業省(現、経済産業省)と経済企画庁(現、内閣府)の手で「昭和26年産業連関表」が作成され、昭和30年表以降は行政管理庁(後の総務庁、現、総務省)を中心に関係省庁の共同作業によって5年ごとに作成され、2001年1月の省庁再編を経て10府省庁(内閣府、総務省、経済産業省、財務省、農林水産省、厚生労働省、文部科学省、国土交通省、金融庁、環境省)の共同作業となり、今日に至っている。1978年8月に、日本の国民所得統計が国際連合(国連)による新しいSNAの基準に全面移行したのに伴い、産業連関表はその計算体系のなかに、経済活動別財貨・サービス産出表(V表)および経済活動別財貨・サービス投入表(U表)として国民所得勘定等と関連づけて組み込まれることになった。しかし、SNAは毎年作成されねばならないため、そのなかに十分詳細な産業連関表を盛ることはできず、したがって、その年次計数との関連に注意を払いつつ、現在も同計算体系とは別に、5年ごとの詳細な産業連関表が作成・公表されている。
[高島 忠・飯塚信夫 2020年9月17日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…学問領域としては,50年代までにすでに理論的基礎が完成し,近年では独自の領域として言及されることはまれだが,これはこの領域が死んだためではなく,生産分析における当然の前提として基礎理論の不可欠の一部に組み込まれ,いわば正統理論化された現実の反映にほかならない。さらに,アクティビティ・アナリシスによってはじめて生産の経済分析を線形計画法やゲーム理論と本質的に関連づけることができるようになり,また投入産出分析(産業連関表)の理論的基礎が用意された事実も見逃せない。 アクティビティ・アナリシスの鍵概念は工程(アクティビティ)である。…
…彼の試みは,その後の経済学を貫く思潮の一つとなり,現代にまで受け継がれている。とりわけ経済表として1枚の図表に経済活動の全貌を集約して表現しようとした彼の着想は,マルクスの再生産表式やレオンチエフの産業連関表として結実し,経済学上有力な分析用具を提供する結果となった。 現代の国民経済の循環構造を具体的にとらえる手法としては,上記の産業連関表のほかに,国民経済計算と資金循環表(マネー・フロー表)があげられる。…
…企業や家計や労働者などの各主体の行動を数量的に調べるミクロ(微視的)計量経済分析も過去にも増して盛んであるが,古典的な方法とは異なり,現在では膨大な数のミクロ的統計資料に新しく開発された統計的手法が適用されている。また,ミクロ的分析とマクロ的分析のいわば中間に位置するものとして,諸産業間の投入・産出関係を示す経済表(産業連関表)を作り,経済構造の統計的把握を行おうとするW.レオンチエフの投入産出分析も定着しており,これをマクロ計量経済モデルと統合した多部門の計量経済モデルも主要各国で開発されている。【豊田 利久】。…
…経済学上の著作活動は,ディドロとダランベールの編集した《アンシクロペディー(百科全書)》に寄稿した〈借地農論〉(1756)と〈穀物論〉(1757)にはじまる。とくに〈経済表〉は,ケネーの経済思想の核心をなしており,後世の経済学者から経済循環図式,再生産表式,産業連関表の原型であると高く評価された。ケネーは,農業だけが〈純生産物produit net〉を産出し,製造業は土地の生産物に加工し,製品に仕上げるだけだから,資本その他の資源をできるだけ多く農業に配分することが,当時のフランス経済と財政の再建に必要だと考えた。…
…それは国民経済の年々の動きをフローとストックの両面からいくつかの勘定の体系にまとめたものである。さらに産業の相互の関連を一つの表の形にまとめたものに産業連関表があり,日本では各省庁の協力によって5年ごとに作られている。基礎的な表では全産業を約500の部門に分けて,各産業部門ごとの中間投入,最終需要,付加価値を計算している。…
…彼は産業を生産単位とする生産技術の観点から,国民経済の構造を産業間の投入・産出の相互依存関係として定式化するとともに,独創的かつ単純な仮定を加えることで,一般均衡モデルの計量化を可能にした,いわゆる投入産出分析を創造した。この分析の数量的基礎を提供する産業連関表(投入産出表)は,今日世界数十ヵ国で作成され,政府活動の効果,産業活動の計画や予測,さらに環境問題の分析などに幅広く利用されており,レオンチエフ表と呼ばれることもある。この〈前人未到の分野を独力で創造し開拓した研究〉に対して,1973年ノーベル経済学賞が与えられた。…
※「産業連関表」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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