産業連関表(読み)さんぎょうれんかんひょう(英語表記)input-output table

日本大百科全書(ニッポニカ)「産業連関表」の解説

産業連関表
さんぎょうれんかんひょう
input-output table

産業間において一定期間に行われたやサービス取引を一つの行表(マトリックス)に示した統計表。一国の経済構造を明らかにし、国民経済計算(SNA)を始めとして多くの経済統計調査にとって重要となる基本データになっている。また、ある産業で新たな需要が発生した場合に、他の産業にどのように生産が波及しているかという経済波及分析に用いられることも多い。

 日本では、10府省庁の共同作業による産業連関表(全国表)を5年ごとに作成しているほか、以下の産業連関表が作成されている。地域産業連関表(経済産業省が5年ごとに作成)、都道府県・市産業連関表(都道府県・市がおおむね5年ごとに作成)、延長産業連関表(全国表をベンチマークとして直近の産業構造を推計したもので、経済産業省が毎年作成)、国際産業連関表(経済産業省やアジア経済研究所が作成)、各種分析用産業連関表(分析目的に応じて各機関が作成)などである。

 ここでは全国表を例に産業連関表の構造とおもな統計表について説明する。

[飯塚信夫 2020年9月17日]

産業連関表の構造

産業連関表の方向(列)には、ある産業(部門とよばれる)がどの部門からどれだけ原材料を購入(中間投入)し、どれだけ財やサービスを国内生産しているかが記述されている。国内生産額から中間投入を差し引いたものは粗付加価値とよばれ、賃金総額(雇用者所得)、企業の利益(営業余剰)などにそれぞれどれだけ分配されたかが示されている。この原材料や労働力などへの支払いの内訳(費用構成)を、産業連関表では投入inputとよんでいる。

 一方、横方向(行)には、ある部門が生産した財やサービスを、どの部門が原材料として購入(中間需要)し、消費、投資、輸出などに振り向けられているか(最終需要)を記述している。こうした財やサービスは、輸入でまかなわれているものもあるので、行の右端の国内生産額は、中間需要と最終需要を合計して、輸入を差し引いたものとして算出される。部門ごとの行の右端の国内生産額と、列の下端の国内生産額は等しくなっている。各行で示されている、それぞれの部門で生産された財・サービスの販売先の内訳(販路構成)を、産業連関表では産出outputとよんでいる。

 このように、投入と産出の構造を示していることから、産業連関表は投入産出表input-output tableI/O表)ともよばれる。

 産業連関表は、取引基本表として提供されている。2019年(令和1)6月に公表された「2015年産業連関表」では、もっとも詳細な部門の分類として基本分類は(行)509部門×(列)391部門とした。この基本分類に基づき、活動内容が類似した分類を統合した、統合小分類(187分類)、統合中分類(107分類)および統合大分類(37分類)の取引基本表も提供している。

 産業連関表は、取引基本表以外にも、経済分析に資することなどを目的に、さまざまな表を提供している。投入係数表は、ある部門において1単位の生産を行う際に必要とされる原材料等の単位を示したものである。逆行列係数表は、ある部門に対して新たな最終需要が1単位発生した場合に、当該部門の生産のために必要とされる(中間投入される)財・サービスの需要を通して、各部門の生産がどれだけ発生するかを示している。

 2015年(平成27)産業連関表では、1955年(昭和30)の産業連関表の作成開始以来、初めて国内生産額が1000兆円を超えた(約1018兆円)。

[飯塚信夫 2020年9月17日]

歴史的経過

社会で行われるさまざまな経済活動を、内容の通する部門ごとに統合し、それらの部門間の相互関連として把握する試みは、18世紀の中ごろにフランスの重農主義経済学者F・ケネーによって行われ、その成果は『経済表』として発表された。しかしケネーは、この表を経済の社会的再生産過程を理論的に分析するための用具として用いるにとどまり、表について仮説的な数字例を置いたにすぎなかった。実際のデータによる産業連関表を初めて作成したのはアメリカの経済学者W・レオンチェフである。彼は、1919年と1929年のアメリカ経済について、その産業連関表を作成し、それらを用いてアメリカ経済の分析と予測に目覚ましい成果をあげた。そのため、この方法の有用性はアメリカをはじめ各国政府諸機関の注目するところとなった。とくに第二次世界大戦後は、欧米各国の政府機関によって産業連関表が作成され、国民経済の分析や政策策定に広く利用されてきた。

 日本においても、1955年に初めて通商産業省(現、経済産業省)と経済企画庁(現、内閣府)の手で「昭和26年産業連関表」が作成され、昭和30年表以降は行政管理庁(後の総務庁、現、総務省)を中心に関係省庁の共同作業によって5年ごとに作成され、2001年1月の省庁再編を経て10府省庁(内閣府、総務省、経済産業省、財務省、農林水産省、厚生労働省、文部科学省、国土交通省、金融庁、環境省)の共同作業となり、今日に至っている。1978年8月に、日本の国民所得統計が国際連合(国連)による新しいSNAの基準に全面移行したのに伴い、産業連関表はその計算体系のなかに、経済活動別財貨・サービス産出表(V表)および経済活動別財貨・サービス投入表(U表)として国民所得勘定等と関連づけて組み込まれることになった。しかし、SNAは毎年作成されねばならないため、そのなかに十分詳細な産業連関表を盛ることはできず、したがって、その年次計数との関連に注意を払いつつ、現在も同計算体系とは別に、5年ごとの詳細な産業連関表が作成・公表されている。

[高島 忠・飯塚信夫 2020年9月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「産業連関表」の解説

産業連関表
さんぎょうれんかんひょう
interindustry table

投入=産出表 input-output tableともいう。国民所得統計が,生産された財貨・サービスのうち最終需要となったもの,および生産から発生した所得だけしかとらえないのに対し,産業連関表は生産過程で原材料などとして中間消費されるものも含めてすべての財貨・サービスの生産とその処分にいたる経済活動をとらえようとする。アメリカの経済学者 W.レオンティエフによって初めて作成されたもので,生産活動を記録する内生部門と最終需要,付加価値を表わす外生部門の2つに分れる。産業連関表の列 (縦) は,ある産業あるいは商品の費用構成を示し,生産のためにどのような財貨・サービスが使用されたか,また所得 (付加価値) がどれだけ発生したかを示し,さらに最終需要は家計,政府などの最終消費,資本形成,輸出などに分れ,その各列はその財貨・サービス別の構成を示す。これに対し行 (横) は各財貨・サービスがどの部門にどのように販売されたかを示す。産業連関表は生産の相互関係を明らかにするとともに,産業構造,雇用構造,分配構造,価格構造の分析や予測などで使用されている。

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デジタル大辞泉「産業連関表」の解説

さんぎょう‐れんかんひょう〔サンゲフレンクワンヘウ〕【産業連関表】

一定期間内における一国のそれぞれの産業部門が生産した財・サービスが各産業部門と最終需要部門とにどのように配分されたかを統計数値によって表にしたもの。レオンチェフが初めて作成した。日本では、総務省など関係府省が共同で、西暦末尾が0および5の年を対象年として作成する。基幹統計の一つ。投入産出表。レオンチェフ表。I/O表。
[補説]日本では、上記のほかに、経済産業省が地域産業連関表・延長産業連関表・国際産業連関表を作成している。延長産業関連表は、産業連関表の中間年を補完するため、毎年最新の統計情報を用いて推計するもの。また、各都道府県・市町村でも、それぞれ産業関連表を作成・公表している。

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精選版 日本国語大辞典「産業連関表」の解説

さんぎょう‐れんかんひょう サンゲフレンクヮンヘウ【産業連関表】

〘名〙 一定期間に行なわれたすべての経済取引を産業部門に分割して、部門相互間の投入と産出の相互関係を示した表。経済分析、経済予測経済計画などに応用する。投入産出表。レオンチェフ表。I/O表。

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世界大百科事典 第2版「産業連関表」の解説

さんぎょうれんかんひょう【産業連関表 inter‐industry table】

国民所得統計とならんで,一国の経済構造をとらえるために,さまざまな一次統計を加工し,体系化した二次統計の一種。国民所得統計が経済の動きをいわば通時的に観測するのに対し,産業連関表は経済の共時的構造をみようとするものといえる。経済統計としての国民所得統計が,経済理論のでのマクロ経済学発展と手をたずさえ,ときにそれを支え,また逆にそこから刺激をうけつつ発展してきたのに対して,産業連関表は,少なくとも当初においては経済学における一般均衡論の具体的適用のための資料として構想されたものである。

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世界大百科事典内の産業連関表の言及

【アクティビティ・アナリシス】より

…学問領域としては,50年代までにすでに理論的基礎が完成し,近年では独自の領域として言及されることはまれだが,これはこの領域が死んだためではなく,生産分析における当然の前提として基礎理論の不可欠の一部に組み込まれ,いわば正統理論化された現実の反映にほかならない。さらに,アクティビティ・アナリシスによってはじめて生産の経済分析を線形計画法ゲーム理論と本質的に関連づけることができるようになり,また投入産出分析(産業連関表)の理論的基礎が用意された事実も見逃せない。 アクティビティ・アナリシスの鍵概念は工程(アクティビティ)である。…

【経済循環】より

…彼の試みは,その後の経済学を貫く思潮の一つとなり,現代にまで受け継がれている。とりわけ経済表として1枚の図表に経済活動の全貌を集約して表現しようとした彼の着想は,マルクスの再生産表式やレオンチエフの産業連関表として結実し,経済学上有力な分析用具を提供する結果となった。 現代の国民経済の循環構造を具体的にとらえる手法としては,上記の産業連関表のほかに,国民経済計算資金循環表(マネー・フロー表)があげられる。…

【計量経済学】より

…企業や家計や労働者などの各主体の行動を数量的に調べるミクロ(微視的)計量経済分析も過去にも増して盛んであるが,古典的な方法とは異なり,現在では膨大な数のミクロ的統計資料に新しく開発された統計的手法が適用されている。また,ミクロ的分析とマクロ的分析のいわば中間に位置するものとして,諸産業間の投入・産出関係を示す経済表(産業連関表)を作り,経済構造の統計的把握を行おうとするW.レオンチエフの投入産出分析も定着しており,これをマクロ計量経済モデルと統合した多部門の計量経済モデルも主要各国で開発されている。【豊田 利久】。…

【ケネー】より

…経済学上の著作活動は,ディドロとダランベールの編集した《アンシクロペディー(百科全書)》に寄稿した〈借地農論〉(1756)と〈穀物論〉(1757)にはじまる。とくに〈経済表〉は,ケネーの経済思想の核心をなしており,後世の経済学者から経済循環図式,再生産表式産業連関表の原型であると高く評価された。ケネーは,農業だけが〈純生産物produit net〉を産出し,製造業は土地の生産物に加工し,製品に仕上げるだけだから,資本その他の資源をできるだけ多く農業に配分することが,当時のフランス経済と財政の再建に必要だと考えた。…

【統計】より

…それは国民経済の年々の動きをフローとストックの両面からいくつかの勘定の体系にまとめたものである。さらに産業の相互の関連を一つの表の形にまとめたものに産業連関表があり,日本では各省庁の協力によって5年ごとに作られている。基礎的な表では全産業を約500の部門に分けて,各産業部門ごとの中間投入,最終需要,付加価値を計算している。…

【レオンチエフ】より

…彼は産業を生産単位とする生産技術の観点から,国民経済の構造を産業間の投入・産出の相互依存関係として定式化するとともに,独創的かつ単純な仮定を加えることで,一般均衡モデルの計量化を可能にした,いわゆる投入産出分析を創造した。この分析の数量的基礎を提供する産業連関表(投入産出表)は,今日世界数十ヵ国で作成され,政府活動の効果,産業活動の計画や予測,さらに環境問題の分析などに幅広く利用されており,レオンチエフ表と呼ばれることもある。この〈前人未到の分野を独力で創造し開拓した研究〉に対して,1973年ノーベル経済学賞が与えられた。…

※「産業連関表」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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