江戸時代の数学者。通称勇左衛門,号は中嶽,水あるいは晩成堂という。字は子顕。幕府の火消与力であったが浪人し,子弟に数学を教える。数学を本多利明および安島直円に学ぶ。算木での計算を筆算で行う点竄(てんざん)の優れた教科書として名高い《算法点竄指南録》15巻(1810序)の出版により世間に知られる。本書は初歩から高度な内容まで,その当時の数学が詳しく解説されている。その中には,球面三角法,対数表の使い方,楕円周の求め方も示されている。坂部には多くの著書があるが,刊行されたのは,ほかに《海路安心録》(1817)があり,航海に必要な種々の心得が説明されている。また,《地球略図説》なる1枚刷りの世界地図の刊行もある。彼は数学の普及,改良,測量などに大きな功績を残した。
執筆者:下平 和夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(道脇義正)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
江戸中期の数学者。通称は勇左衛門、字(あざな)は子顕(しけん)、号は中嶽(ちゅうがく)または澗水(かんすい)という。初めは戸田子顕と称した。本多利明(としあき)および安島直円(あじまなおのぶ)に数学を学ぶ。幕府の火消与力(よりき)であったが、のちに浪人する。著書は多いが、なかでも『算法点竄指南録(てんざんしなんろく)』(1815)は、点竄の教科書として広く利用された。このうち対数表は、印刷された表としては日本最初である。また楕円(だえん)周、球面三角法、そのほか、当時の数学のほとんどすべてが含まれている。
[下平和夫]
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