算木(読み)サンギ(その他表記)suàn mù

デジタル大辞泉 「算木」の意味・読み・例文・類語

さん‐ぎ【算木】

で、を表す四角の棒。長さ約9センチで、6本あり、おのおの四面のうち二面こうを表し、他の二面はを表す。
和算で使う計算用具。長さ約4センチで、約0.5センチ角の木製の棒。赤は正数、黒は負数を表す。

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精選版 日本国語大辞典 「算木」の意味・読み・例文・類語

さん‐ぎ【算木】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 易占で卦(け)を示すために用いる道具。長さ約一〇センチメートルの方柱状の六本の木で、おのおのに陰陽を示す四面があり、それによって陽爻(ようこう)あるいは陰爻(いんこう)を表わす。
    1. 算木<b>①</b>
      算木
    2. [初出の実例]「なかのり、十六づをくり、八けのそくさをもってさんぎをちらし」(出典:御伽草子・ささやき竹(室町末))
  3. 和算で使われた中国伝来の計算用具。木製の小さな角棒で、赤は加、黒は減を示す。これを方眼を引いた厚紙ないしは木製の盤上に並べて数を表わし、配列を変えることによって四則・開平・開立などの計算を行なう。中国では算・策・籌などと呼ばれ、宋・元時代以降はこれを用いて高次方程式が解かれたが、日本でも江戸時代にはこの目的のために使用された。算。算籌(さんちゅう)
    1. [初出の実例]「十界十如は法算ぎ、法界唯心覚りなば、一文一偈を聞く人の、仏に成らぬは一人なし」(出典:梁塵秘抄(1179頃)二)
  4. 屋根を葺(ふ)いた板などをおさえるために打ちつける細長い棒。
    1. [初出の実例]「板葺きの屋根の算木や添石も温泉町と変りがなかった」(出典:雪国(1935‐47)〈川端康成〉)
  5. 紋所の名。をかたどったもの。引両紋と混同を避けるために地黒とすることが多い。

算木の補助注記

日本の現存最古の算木は平安時代のもので、中国からもたらされた。「説文解字」には「筭」に「長六寸、所以計厤数者、从竹弄、言常弄乃不誤也」とあり、計算具であると同時に占いのためにも用いられた。

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改訂新版 世界大百科事典 「算木」の意味・わかりやすい解説

算木 (さんぎ)
suàn mù

(1)易占(えきせん)に使う道具。長さ約10cm,幅約2cmくらいの正方柱体。全面黒色の2面は易の陽爻(ようこう)を示し,他の2面の中央には黒地に幅2cm弱の切りこみがあり,朱か黄色に塗られてあって陰爻をあらわしている。6本でひと組。材質はふつうの木だが,黒檀製の上等のものもある。筮竹ぜいちく)の操作によって出た爻を,下から上へ順次置いてゆくためのもの。古代には1爻を得るごとに地面に爻を描き,6爻(ひとつの卦(か)を成す)が備わると方版に描いて依頼者に示したといい(《儀礼(ぎらい)》士冠礼の疏),朱熹の《筮儀》にも,爻を描くために筆と墨と黄色い漆の板を用意せよとあって算木(中国語の卦子)への言及がないから,算木を使うのは古礼ではなく近世にはじまったことがらであろう。

(2)中国の計算器。算木は日本に伝わってからの呼称で,中国では算,籌(ちゆう),策などと呼ぶ。10cm前後の細い角棒で,これを図のように組み合わせて任意の数字をあらわした。縦式によって一,百,万の位の数を,横式によって十,千の位の数を表示する。たとえば,3167ならと置き,ゼロは13世紀ころまで符号がなかったのでその部分は空けておいた。これを碁盤目に区切られた布地(後世は紙)の計算盤(算盤)の上にならべ,加減乗除の四則計算や開平(平方根)・開立(立方根)の計算を行った。算木はすでに春秋戦国時代から使われ,そろばんがあらわれる13世紀ころまでこの算木によって計算が行われた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「算木」の意味・わかりやすい解説

算木(易占)
さんぎ

易者が筮竹(ぜいちく)を使って易占をするとき、自己の記憶のためと客に結果を示すため、6個の長方形の小さな木片を並べる、その木片をいう。中国古代の占いの手段には、亀甲(きっこう)や獣骨を火であぶり、できたひび割れの状態から判断する卜(ぼく)と、メドギ草の茎を使って計算する筮という方法とがあった。そのうち筮のほうが複雑で神秘性があったためか、計算のなかに合理性を感じたためか、いくつもの流派ができて発達した。

 易の基本的な考え方では、宇宙は陰陽の二元から成り立っており、人間の運命も当然それに左右されているものであるから、易の数によって人の未来を予知できるとする。易の基本になる八つの図形を八卦(はっけ)といい、それを組み合わせたものが64卦ある。易占の方法としては、メドギ草の茎から発達した50本の筮竹を操作して、六十四卦のなかから一つの卦を求め、その卦についた経句を解釈して占う。

 算木の大きさに規格はないが1センチメートル角に長さ6センチメートルほどのものが多く使われる。算木は2面を真っ黒に塗り、他の2面は黒地の中央に溝をつくって黄や赤を塗る。真っ黒な面は陽を表し、他の面は陰を表す。筮竹の操作は、簡略なものでも6回、本格的な場合は18回も同じ操作を繰り返すが、1回ごとに算木を動かして、表れた形を読み取る。占いの操作は複雑であっても、結局は偶然に左右されるものであり、判断の基準とされる経句も、いくつもの解釈が可能である。現代日本の易者風俗は、夕方から街角に机を置き、ほの暗い行灯(あんどん)を置いて手相・人相・骨相などとともに筮占を行う。依頼者の側はさまざまであるが、なにか心に悩みや迷いのあるとき、判断を偶然のなかに求めようとする。易者は会話やそぶりのなかから、ことばを選択することがありえよう。もちろん遊びと心得る人が多いが、いくつもの大学に易占の同好会があり、若い世代にも人気がある。通俗的な解説書も多く出回っている。

[井之口章次]


算木(計算)
さんぎ

中国および日本の古い計算器具。中国では算、籌(ちゅう)、策などとよび、日本では算木と称する。江戸時代の算木の大きさは長さがマッチの軸木ぐらいで、太さはマッチ軸の3倍ぐらいの四角柱である。ただし古くはもっと大きかったようである。赤と黒の2色あり、赤は正、黒は負の数を表す。総数は200本ぐらいであった。この算木を使って古くは多元一次方程式を表し、のちには一元高次方程式を表すことになった。

[大矢真一]

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百科事典マイペディア 「算木」の意味・わかりやすい解説

算木(数学)【さんぎ】

中国で発明された計算器具。断面が正四角形の棒で,赤黒2色あり,赤は正数または加法,黒は負数または減法を表す。縦または横に向けて並べて,1〜9の数を表し,これを十進法の位の順に横に配列して任意の数を示す。中国で殷(いん)・周ごろから使われ,算,籌(ちゅう),策などと呼ばれたが,13世紀にそろばんが普及するとともにすたれた。日本には奈良時代以前に伝わり,室町時代まで使われたが,やはりそろばんの普及によりすたれた。しかし算木を用いる代数学すなわち天元術は江戸時代初め盛んに行われた。
→関連項目朱世傑点竄術

算木(ト占)【さんぎ】

(えき)による占いに用いる道具。中国では卦子(かし)とも。1.5cm角で長さ9cmくらいの6本の棒で一組を成し,棒の2面は黒色で陽爻(ようこう)(―)を,他の2面には中央に溝を掘り赤色などで目印をつけ陰爻(いんこう)(−−)を表す。筮竹(ぜいちく)の操作により得た爻を上から順番に並べ卦を作る。6爻を得るためには,18回の筮竹の操作が必要で,その記憶のため考案されたものといわれる。
→関連項目八卦

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「算木」の解説

算木
さんぎ

朱は正の数,黒は負の数を表す長さ4~5cmほどのマッチの軸のような四角柱の棒。中国で始まり,日本に輸入された。中国では15世紀頃使われなくなった。算盤(そろばん)の原形で,加減乗除,開平,開立の計算ができる。記数法は一・百・万の位を縦式,十・千の位を横式で表すが,日本で用いられた算盤(さんばん)上では縦式のみを使う。最上欄に位取り,縦に数係数を並べて表し,数係数の一元高次方程式のホーナーの方法で解く。易占の算木は3本2組の計6本を用いる。1本の2面の中央に切り込みがあり,その2面が陰,他の2面が陽を表すため3本で8通りの卦(八卦)を示すことができる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「算木」の意味・わかりやすい解説

算木
さんぎ
Suan-mu

卦 (か) 木ともいう。中国や日本で,易によって占いをするときに用いる道具。筮 (ぜい) によって占い出された陰,陽の爻 (こう) を筆記する代りに用いられる長さ 10cmほどの木製の角柱で,角の一面の中央部に溝をつけておく。溝のない面が陽,溝のある面が陰を表わし,6本で一卦をなす。

算木
さんぎ

算籌」のページをご覧ください。

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占い用語集 「算木」の解説

算木

占筮で得られた卦を机上に表現するための筮具で、四つの面を持った六本の木片。二面は陽爻、もう二面は陰爻を表す。これを展開していくことによって様々な角度から易の卦を見ていくことが可能となる。種類としては両義算木と四象算木の二種類がある。

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世界大百科事典(旧版)内の算木の言及

【ゼロ】より

…200年ころにはこのようなあいまいさをなくした記法も利用されるようになったが,それは天文学などの特別の分野のみで一般的ではなかった。 別の例として中国の算木がある。中国では前数百年ころから算木を使って数を表し計算をした。…

【中国数学】より

…次の周代の数学を知る資料は乏しいが,春秋戦国ともなると,四則計算を中心にかなり数学が発達してきたと思われる。漢字による数字表記では,現在のアラビア数字とはちがい,筆算が行えないため,計算には算木(算,籌(ちゆう),策などという)が使用された。大きさや形は一定しないが,竹や木を短く切った棒を格子状に区切った盤に並べて(布算という)数字を表し,計算を行った。…

※「算木」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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