墓掘人(読み)はかほりにん

改訂新版 世界大百科事典 「墓掘人」の意味・わかりやすい解説

墓掘人 (はかほりにん)

墓の穴を掘ることを業とする人。死体を放置せず埋葬する習慣は人類とともに古い。先史時代の人骨のそばから発見された花粉によって,古くから埋葬に際し花がささげられたことも推定されている。エジプトのミイラ製作が専門職に任されたのは当然としても,土葬の墓掘職がいつごろから分業の専門職になったかは不明である。ローマで初期のキリスト教徒カタコンベで仲間を埋葬したころにはフォソルfossorと呼ばれる墓掘人は聖職者の一種として扱われ,石を掘り出すレクティカリウスlecticarius,死体を清め埋葬するリビティナリウスlibitinarius,碑文を刻んだり図像を描くコピアタcopiata,デカヌスdecanusなどの職種があった。キリスト教公認後には墓掘人は勢力のある団体で,ダマスス1世が教皇に選挙される際には実力行使に出たほどであった。4世紀から近世まで墓地を売るのは墓掘人の権利となり,墓地を長く保有したい家族を相手に契約を取り交わし契約文を墓石に刻んだ。土葬のヨーロッパでは5年たてば同じ場所に次の死体を埋めるが,3,4回目には土が腐食力を失うので,墓掘人は十分土にかえっていない死体や骨を掘り出すことになる。死人を埋葬するのは,カトリックでは〈七つの愛徳の行為〉の一つとされていたが,ピレネー山脈を挟む南フランスとスペインの地方では墓掘人はパリア不可触民)扱いをされた。

 14世紀から戦乱ペストなどの悪疫の続いたあと,15世紀のヨーロッパでは〈死の舞踏〉のような死のテーマが文学,絵画に取り上げられたが,命を刈る鎌を担いだ死神の脇には鋤を手にした墓掘人が配されることが多い。シェークスピアは《ハムレット》第5幕で陽気な墓掘人を登場させ,ヨリックの頭骸骨を掘り出させているが,のちにロマン派の詩人たちは好んで瞑想的,または達観した墓掘人を扱い,ディケンズも《骨董店》の中で客観的に墓掘人を描いている。
三昧聖
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の墓掘人の言及

【賤民】より


[ヨーロッパ]
 ヨーロッパにおける賤民の系譜は,古代世界を別にすれば,初期中世の〈人間狼(人狼)Werwolf〉までさかのぼることができる。人間狼とは,氏族団体(ジッペ)の平和を乱す夜間の殺人,放火などを犯した人間が,氏族団体から追放されるとき(平和喪失)に呼ばれた名称である。平和喪失を宣告された者は死者とみなされ,その妻は未亡人,子は孤児とされる。氏族団体から追われた者は人間世界のなかに住むことを禁じられ,森のなかに入ってゆくが,彼らすべてが森のなかでのたれ死したわけではない。…

※「墓掘人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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