三昧聖(読み)さんまいひじり

改訂新版 世界大百科事典 「三昧聖」の意味・わかりやすい解説

三昧聖 (さんまいひじり)

三昧(墓所)の庵室に居住し,火葬埋葬,墓所の管理などにあたった俗聖。一般に墓守御坊(おんぼう)(隠坊)などと称される。墓所が三昧と呼ばれるようになってからの呼称であろうが,文献上の初見は15世紀はじめに書かれた聖聡の《浄土三国仏祖伝集》で,〈薩生法眼,三昧義を立つ。三昧衆と号す。今世,三昧聖是也。または御坊聖と名づく〉(原漢文)とある。宣教師ルイス・フロイスも1576年(天正4)の報告書翰に〈貧窮なる兵士および保護者なき人死する時は,フジリスと称する人達のもとに遺骸を運びて焼かしむる習慣〉のあったことをのべている。墓所管理や葬送関与したの存在はもっとはやく,行基集団のなかにもいたと推定されるし,民間の念仏聖も関係していた。三昧聖が行基を祖とするのはこのような史的背景によっていよう。行基系の三昧聖は畿内近国に多く,行基墓地開創伝承志阿弥法師譚を伝えている。志阿弥とは行基の法弟で,火葬を行い,墓地を開創したという伝承上の架空の人物であるが,志阿弥=沙弥と考えられ,三昧聖が葬送の俗聖であったことを示している。近世には,行基との因縁により,東大寺勧進竜松院配下にあった。五畿内および近江丹波7ヵ国の三昧聖は国ごとに二,三の組にわかれ,組頭と聖総代がいて,竜松院の支配を受けていた。三昧聖には俗体と法体の者がいて,後者は阿弥号を名のり,直綴(じきとつ)を着けた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三昧聖」の意味・わかりやすい解説

三昧聖
さんまいひじり

死者の埋葬に従った下法師(げほうし)。「廟聖(びょうひじり)」ともいう。三昧とは、本来、念仏三昧・法華(ほっけ)三昧など「専心する」意であるが、平安時代以来、墓所を意味する語(五三昧(ござんまい))となり、もっぱら埋葬・墓守の事に従う者が三昧聖とよばれるようになったのである。1501年(文亀元)に前関白九条政基が和泉国(いずみのくに)日根荘(ひねのしょう)に下向、直務(じきむ)支配に当たったときの日記『政基公旅引付(まさもとこうたびひきつけ)』には、「当道(とうどう)(三昧)之儀ハ更ニ敵御方(てきみかた)之沙汰(さた)ニ及バザル也、田ノ一枚モ作ラズ、只当道ノ職バカリニテ渡世」している日根荘の三昧聖や、和泉国取石宿(とろすしゅく)の三昧堂に住んで囚人を預かる三昧聖の姿が記されている。近世には五畿内(ごきない)および近江(おうみ)・丹波の三昧聖は東大寺大勧進職(だいかんじんしき)竜松院(りゅうしょういん)の配下に置かれていた。

[丹生谷哲一]

『細川涼一編『三昧聖の研究』(2001・硯文社)』

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百科事典マイペディア 「三昧聖」の意味・わかりやすい解説

三昧聖【さんまいひじり】

三昧(三昧聖)にあって火葬・埋葬や墓地の管理にあたった聖。墓守(はかもり)・御坊(おんぼう)などという。15世紀の《浄土三国仏祖伝集》にみえるが,念仏聖も含めた聖の墓所への関与はさらにさかのぼると推定され,祖とする行基(ぎょうき)やその法弟という志阿弥(しあみ)(沙弥のことか)の伝承があった。近世には東大寺の勧進(かんじん)職竜松(りゅうしょう)院の支配下にあって,畿内(きない)などでは組頭・聖総代などを置いて活動していた。

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世界大百科事典(旧版)内の三昧聖の言及

【火葬】より

…真宗地帯に火葬が多いが,同じ真宗でも土葬のところも多く,真宗の教義に火葬を強制するものはない。火葬の管理人には三昧聖や隠坊(おんぼう)などとよばれる専業のものが当たるところと,葬式組や講員,隣人などがなるところとがある。火葬の普及にともなって,諸国の仏教霊場,高野山や善光寺などへ分骨,納骨が行われるようになった。…

【聖】より

…半僧半俗的な沙弥(しやみ)・優婆塞(うばそく)(優婆塞・優婆夷),官寺仏教と対立していた禅師・菩薩などは奈良時代の聖であり,平安時代の聖人(しようにん)・上人(しようにん),浄土教の興隆とともに現れた阿弥陀聖や阿弥陀仏号(阿弥号)を僧名に付した民間教化者はいずれも沙弥・優婆塞的な性格を色濃くおびていた。沙弥・優婆塞的な半僧半俗性が聖の基本的性格の一つであり,近世の三昧聖もまたこの性格を継承している。都鄙の庶民を教化し,庶民仏教の展開に主導的役割を果たしたのは実にこの聖たちであった。…

※「三昧聖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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