多剤併用療法(読み)たざいへいようりょうほう

百科事典マイペディア 「多剤併用療法」の意味・わかりやすい解説

多剤併用療法【たざいへいようりょうほう】

数種類の薬剤を併用して治療する方法のこと。(がん),エイズハンセン病高コレステロール血症などで効果を上げている。 たとえば,制癌薬は1種類だけを使うと,副作用が強く出るため大量には投与できず,癌細胞を死滅させられないことが多い。しかし,それぞれの制癌薬の副作用は異なるので,数種類の制癌薬を少しずつ使えば,副作用が分散する一方で,癌細胞を殺す作用を増強できる。多剤併用療法は,癌の治療法として国際的に効果が確認され,各国で標準的な治療法となっている。 また,エイズ治療薬には大きくわけてプロテアーゼ阻害剤逆転写酵素阻害剤があり,これらを併用することによって,かなりの延命効果が期待できるようになった。1996年7月の国際エイズ会議では,多剤併用療法によってエイズの原因となるHIVヒト免疫不全ウイルス)がほとんど消えたという報告が多数の病院からあった。 逆転写酵素阻害剤は,HIVが増殖するうえで,RNADNAに遺伝情報を伝える転写を妨げる働きがある。また,プロテアーゼ阻害剤は,HIVがリンパ球をプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)で壊して自分用につくり変えるのを阻止する。逆転写酵素阻害剤の一種で,アメリカ食品医薬品局FDA)の承認を受けたAZT(azidothymidine)によって,HIVが脳に入ることで起きる記憶力低下,運動障害,人格変化などが改善されるようになってきた。 しかし,1998年に発表された米アラバマ大学のジャンピエール・ソンマドッシ教授(臨床薬理学)の研究によれば,多剤併用療法でAZTを使うと,逆転写酵素阻害剤がウイルスの増殖を抑えにくくなる,という結果も出ている。
→関連項目レトロウイルス

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