最新 心理学事典 「多文化間カウンセリング」の解説
たぶんかかんカウンセリング
多文化間カウンセリング
multicultural counseling
多文化間カウンセリングの議論は,1960年代から1970年代初めのアメリカにおける公民権運動を発端にしており,福祉や医療,教育などの広い分野で文化的・民族的少数派のニーズに適したサービスを求める動きが高まった。カウンセリングの領域においても,伝統的なカウンセリングモデルの限界と,クライエントの文化的価値や世界観に見合ったサービスの必要性が議論されるようになっている。
多文化間カウンセリングにおいて必要とされるカウンセラーの職能については,1980年代から1990年代にかけて,スーSue,D.W.ら(1992)が示した多文化間カウンセリング能力multicultural counseling competence(MCC)のモデルの影響が大きい。この概念モデルは,カウンセラーに求められる能力を,自分自身およびクライエントの文化的価値観やアイデンティティについての気づき,文化の及ぼす影響や特定の文化集団のニーズについての知識,文化の問題に適切な注意を払い,扱うスキルの三つの側面からとらえており,このモデルを基盤として,MCC育成のための訓練プログラムの開発やMCCを測定するための尺度の研究,またMCCをカウンセラーの職能の一部として位置付け,専門家養成のカリキュラムに導入を図る働きかけが進められてきた。2003年にはアメリカ心理学会によって,「心理学者のための多文化間教育・訓練・研究・実践・組織変容に関するガイドライン」が示され,実践・研究全体に対して枠組みを提供している。このガイドラインでは,クライエントとカウンセラーの間で生じる文化の問題のみならず,文化的多様性に対応できる組織づくりや,社会的・文化的少数者に向けられた抑圧の構造を理解し社会的公平性を求めていくことなどを含むカウンセラーの多様な役割が示されている。
一方日本では,高度成長期の海外赴任者の急増を背景に,邦人の海外での異文化適応や帰国児童生徒の帰国後の適応問題が社会的注目を集めるのと合わせて,異文化接触に伴う心理的混乱とその後の適応のプロセスを説明するカルチャーショックculture shockの概念(Oberg,K.)や,異文化滞在下の人びとを援助する多文化間カウンセリングが注目された。1980年代に入ると,留学生や外国人労働者等の増加を受け,国内でも文化的に適切なサービスの必要性が増していったが,この領域への関心は十分とはいえず,取り組みは遅れている。 →カウンセリング
〔大西 晶子〕
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