フランスの作家セリーヌの長編小説。1932年刊。語り手の医学生バルダミュはひょんなきっかけから兵役を志願、第一次世界大戦に駆り出されて負傷、戦争を呪(のろ)いつつ別天地を求めて遍歴の旅に出る。しかしアフリカでは植民地支配の醜さをみせつけられ、アメリカでは機械文明に疎外された人間の形骸(けいがい)をみいだすばかり。絶望したバルダミュは娼婦(しょうふ)モリーの純愛をも振り切ってパリに戻り、医者を開業。場末の貧民街のいじましい日常に身を沈める。戦場以来行く先々に現れる分身ロバンソンの死。俗語を駆使した破格の文体と、それによってのみ可能なユーモアと詩情と醜悪の調和が、この絶望の書を第一級の文学たらしめている。
[高坂和彦]
『生田耕作訳『夜の果ての旅』(中公文庫)』▽『高坂和彦訳『セリーヌの作品1 夜の果てへの旅』(1985・国書刊行会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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