セリーヌ(読み)せりーぬ(英語表記)Louis-Ferdinand Céline

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セリーヌ」の意味・わかりやすい解説

セリーヌ
せりーぬ
Louis-Ferdinand Céline
(1894―1961)

フランスの小説家。18歳で志願入隊して第一次世界大戦で負傷。除隊後、林業会社の駐在員としてアフリカに渡るが、風土病を得て1年で帰国独学で大学入学資格(バカロレア)をとり、医学を修めて学位を得、国際連盟衛生局に入り、世界各地の視察旅行に数年を過ごしたのち、パリ場末の貧民街開業した。かたわら、戦争以来の体験をもとに書いた『夜の果てへの旅』(1932)が、大胆な口語表現と徹底したペシミズムとなによりも奇抜な物語で読者に大きな衝撃を与え、一躍作家としての地位を築いた。同じ主人公の少年時代を扱った『なしくずしの死』(1936)は、いっそうの大胆さで世界の悪意と人間の悲惨を描き、ために良俗派の攻撃にあいつつも、前作に勝る反響をよんだ。

 しかし第二次大戦の接近とともに、性急な反戦主義から、戦争原因をユダヤ人にみて、『皆殺しのための戯(ざ)れ言(ごと)』Bagatelles pour un massacre(1937)など一連の狂気じみた反ユダヤ文書を発表、ドイツとの同盟を唱えてナチスの協力者とみなされ、ドイツの敗色が濃くなると占領下のパリを脱出、デンマークに逃れ、7年の亡命生活を送った。帰国後、亡命中の体験を描いた『城から城』(1957)で、ふたたび大きな反響をよんだ。『北』(1960)、『リゴドン』(1969年没後刊)がこれに続く。没後も彼の評価は高まる一方である。セリーヌの描く現代地獄絵には、人間の悲惨への深い共感と相まって、一種予言的な世界が感じられる。かといって、その人種差別犯罪も忘れてはなるまい。彼はまた、生涯「生きた書きことば」の完成を追求した文体家でもあった。

[高坂和彦]

『高坂和彦他訳『セリーヌの作品』全14巻(1978~85・国書刊行会)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セリーヌ」の意味・わかりやすい解説

セリーヌ
Céline, Louis-Ferdinand

[生]1894.5.27. パリ近郊クールブボア
[没]1961.7.1. パリ近郊ムドン
フランスの小説家。本名 Louis-Ferdinand Destouches。貧しい家庭に生まれ,医学校に在学中,第1次世界大戦に参加,重傷を負ったのち,海外を放浪。帰国後パリの場末で医師を開業。第一作『夜の果てへの旅』 Voyage au bout de la nuit (1932) で一躍有名になった。絶望的ペシミズムと狂暴な個人主義に彩られたこの作品は,存在に対する嫌悪感を卑俗な会話体で記述し,小説に新しい可能性を開いた。 1937年アナーキズムと反ユダヤ主義による激越な論調のパンフレットを発表。 1944年ドイツ軍敗走と行をともにし,第2次世界大戦後デンマークで投獄され,その後も亡命を余儀なくされた。 1951年特赦により帰国。文壇から黙殺され貧窮のうちに死んだが,その後作品に対する全面的再評価が行なわれた。作品には,『なしくずしの死』 Mort à crédit (1936) ,亡命生活を扱った3部作『城から城』D'un château l'autre (1957) ,『北』 Nord (1960) ,『リゴドン』 Rigodon (1969) など。

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