大人弥五郎(読み)おおひとやごろう

改訂新版 世界大百科事典 「大人弥五郎」の意味・わかりやすい解説

大人弥五郎 (おおひとやごろう)

山を作ったり,沼を作ったりした伝説巨人。主に南九州で伝承されている。弥五郎のつけた足跡とか,土を盛った塚,あるいは彼の行為から起こったとする地名などが伝えられている。また他に,祭りの人形としても登場する。鹿児島県曾於郡大隅町の岩川八幡神社では,祭日の11月5日に大人弥五郎と呼ぶ大人形を作り,町中を練り歩く。《三国名勝図会》によると,この弥五郎人形は日本武尊に征伐された隼人(はやと)の首長であるとも伝えている。これと同様の祭りが,隣の宮崎県の八幡神社にもある。もともと天地生成を説く巨人弥五郎伝説が,八幡信仰に組み込まれたものと考えられる。弥五郎人形は,八幡社の祭り以外に,各地の小正月の左義長(さぎちよう)や虫送りの行事にも使われ,疫病神である牛頭天王(ごずてんのう)の代理として弥五郎人形が燃やされるのだと説明される。牛頭天王をまつる津島神社が広めた信仰の影響によるものであろう。
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朝日日本歴史人物事典 「大人弥五郎」の解説

大人弥五郎

主として九州南部で語られている巨人伝説の主人公。全国的には,ダイダラボッチと称する巨人が,各地に山や塚,湖や沼を作ったという伝説は多い。鹿児島県大隅町の岩川八幡神社の祭りには,大人弥五郎の人形が登場することが知られている。弥五郎人形は,ヤマトタケルに滅ぼされた隼人族の長であるという伝説がある。この事例は,八幡信仰と結びついたものだが,そのほかにも,悪い病気を追放する牛頭天王と結びつき,邪霊を払う弥五郎人形が,村境まで送られ,焼かれてしまう例もある。人形はしばしば悪しきものをとりこめて追放される形代として用いられており,巨人伝説の大人弥五郎は,強力の持ち主だったので,庶民にその力が期待されたのである。

(宮田登)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大人弥五郎」の意味・わかりやすい解説

大人弥五郎
おおひとやごろう

巨人伝説の一主人公。九州地方の称で、東北地方ダイタラボッチに同じ。石臼(いしうす)を背負うて誤って踏み損じた足跡が、池とか水たまりになったとか、彼が担ぐ荷から落ちた土が、塚とか小山になったという伝説の持ち主。

[渡邊昭五]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「大人弥五郎」の解説

大人弥五郎 おおひと-やごろう

南九州の伝説上の巨人。
南九州各地に山や湖をつくったとされ,伝説にちなむ地名がのこっている。東日本につたわる大太法師(だいだらぼっち)と同様の巨人伝説だが,弥五郎のほうが信仰との結びつきがつよいとされる。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の大人弥五郎の言及

【だいだらぼっち】より

…それが信仰の衰退とともに単に大力の持主とか,大男,鬼などのように意識されるに至ったと考えられる。南九州に伝えられている大人(おおひと)弥五郎もこの仲間の一人である。ダイダラボッチの呼称について,タラが貴人の尊称であるとか,あるいはタタラ(踏鞴)の転訛であるとも説かれるが,いまだに決定的な見解を得ない。…

※「大人弥五郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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