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巨人伝説 キョジンデンセツ

大辞林 第三版の解説

きょじんでんせつ【巨人伝説】

巨人にまつわる伝説。中国の盤古や、日本の大太法師だいだらぼうしの伝説などはこの類。

出典 三省堂大辞林 第三版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

巨人伝説
きょじんでんせつ

滑稽(こっけい)味を備えた異常なほどの巨漢にかかわる伝説。池や窪(くぼ)みはその足跡であるとしたり、運ぶ途中の土がこぼれて山となったなどのたぐいがほとんどである。この伝説は全国的に散在し、東日本のダイタラボッチ(大太法師)や、九州地方のオオヒトヤゴロウ(大人弥五郎)の名をもつものが多い。このほかには、ダイタラボー、ディラボッチャ、ディラボー、デンデンボメ、タダ坊などの名がみられる。柳田国男(やなぎたくにお)は「タラ」を貴人の呼称と主張。また、タタラと関連させて鍛冶(かじ)屋の伝播(でんぱ)とする説もある。
 東京都世田谷区代田(だいた)の地名はダイタラボッチの伝説に由来する。つい最近まで代田薬師の付近に2反歩ほどの細長い窪地があったが、それはダイタラボッチの足跡であり、代田橋は彼が架けたと言い伝えられてきた。長野県諏訪(すわ)市の手長神社境内には1反歩ほどの水溜(たま)りが数か所あり、ディラボッチの足跡と伝えられる。山梨県では、レイラボッチなる坊主が麻殻(おがら)の棒で二つの山を運ぼうとしたが、棒が折れて石森山ができた。そのために、東山梨郡ではいまでも麻を植えると縁起が悪いとされている。栃木県宇都宮市の北方にある羽黒山は、デンデンボメという巨人の落としていった山で、彼はここに腰かけて鬼怒(きぬ)川で足を洗った。群馬県多野(たの)郡の赤沼は、ダイタラボッチが赤城(あかぎ)山に腰をおろしてふんばったための足跡。長崎県雲仙(うんぜん)市小浜地方では、味噌(みそ)五郎という大男が雲仙岳に腰かけて、右足を多良(たら)岳に、左足を天草に置いて有明海で顔を洗ったが、そのとき鍬(くわ)の土が落ちて湯島ができたと伝える。『松屋筆記(まつやひっき)』によれば、相模野(さがみの)の大沼は、その昔にダイタラボッチが富士山を背負おうとふんばった足跡であり、この近辺に藤(ふじ)がないのは、彼が背負い縄にするためとりすぎたからである。『奇談一笑』に記される滋賀県の伝承では、その昔大太法師が善積(よしつみ)郡をことごとく掘ってもっこに入れ東へ3歩半歩いて中の土をほうり出した。それで、掘り跡が琵琶(びわ)湖に、ほうり出した土が富士山になった。伝説的な昔話に「一畚(ひともっこ)山」というのがある。これも、天狗(てんぐ)とか大男が夜中に作業をしているうち鶏が鳴いて時間切れとなり、残した仕事が山となったという伝承である。
 神話にも巨人伝説は多い。『古事記』に登場する伊邪那岐(いざなぎ)・伊邪那美(いざなみ)二神の大八洲(おおやしま)誕生譚(たん)や、大己貴神(おおなむちのかみ)(大国主(おおくにぬし)神)出雲(いずも)の国引き神話はこの類である。大始祖神である沖縄のアマンチュウ(天人の意)は日月を天秤棒(てんびんぼう)で担ぎ回った。このほか『常陸国風土記(ひたちのくにふどき)』『播磨(はりま)国風土記』『出雲国風土記』などにさまざまの巨人が登場するが、これらの例でも理解できるように、古く神は非常に大きな姿と考えられていたのである。神が大きな存在であったからこそ、天地創造または近郊の地勢も成立しえた。その神々への尊畏(そんい)観が、信仰の零落とともに、しだいに笑話化し、鬼や天狗、またはダイタラボッチへと変質したのであろう。
 なお、仏教信仰における仏足石も巨人伝説の一種であり、スリランカではスリ(光り輝く)パタ(仏の足)といい熱い信仰の対象となっている。小さな人間に比べて、往生人(おうじょうびと)を極楽へ導く阿弥陀如来(あみだにょらい)や釈迦(しゃか)如来が途方もない巨人としてとらえられてきたとしても、少しも不思議はあるまい。[渡邊昭五]

外国

日本のように、大地の二次的加工を巨人がしたという伝説は、朝鮮にもある。巨人が土を食べて下痢をし、それが積もって白頭山になり、小便が鴨緑江(おうりょくこう)と豆満江(とまんこう)になったなどという。中国には、古代の天地創造神話に、鶏の卵のような形をした原初の宇宙の中から生まれた巨人の盤古(ばんこ)の伝説がある。盤古の背丈が伸びるにしたがって天と地が分かれ、盤古の死体から、風、雲、雷、雨、太陽、月、山、川、草木、岩石など、すべてのものが生じたという。雲南省に住むプーラン族にも、天地の創造をする巨人の神グメイヤの物語がある。盤古と同じく、原初の巨人の伝えはヨーロッパにもある。アイスランドの古伝の創世神話には、人間の姿をした最初のものとして現れるイミルがある。イミルはのちに出現した神々の祖プーリの孫のオーディンたちによって殺され、その死体から、海と湖、大地、山、岩石、天空、雲などが生じたという。古代インドの『リグ・ベーダ』にみえる原人プルシャも巨人の姿をとっており、その体から、天地、日月をはじめ、家畜や各階層の人間が生まれている。古代ギリシアの神話で、天空を支えているという巨人のアトラスが石に変えられたのがアトラス山脈であるというのも、同類の神話が転化したものであろう。近世、アトラスは地球を背負った姿で描かれているが、巨人が大地を支えているという伝えは、古代オリエントのハッティ人の巨人ウペリルの話をはじめ、アジア、南北アメリカなどにもある。[小島瓔
『「ダイタラ坊の足跡」(『定本柳田国男集5』所収・1964・筑摩書房)』

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世界大百科事典内の巨人伝説の言及

【巨人】より

…巨人は,自然や過去に対する文化や現在の優越を物語る神話の論理構造の中で,否定的存在として登場することが多い。 巨人伝説には,次のような類型が見られる。(1)日本の〈だいだらぼっち〉系説話のような,山や湖沼などの自然物の起源を過去の巨人の行動に求めるもの。…

【弁慶】より

…以上の諸点は捨子(すてご)童子がその語源といわれる酒呑(しゆてん)童子や伊吹童子,茨木童子,坂田金時と同じ種類の想像力で作り上げられているといえる。
[巨人伝説,七つ道具]
 《願書》では,流された島(松江市の中海の弁慶島といわれる)から海を埋めて道を作り陸に帰って来たと伝えられるが,また比叡山をはじめ諸国には釣鐘を弁慶が運んだとする伝説や,弁慶の足跡石の伝説がある。また奈良県には,天神山,畝傍(うねび)山は弁慶が棒でかついでいた〈もっこ〉の土が落ちてできたとする伝説がある。…

【湖】より

…また琵琶湖に対してより遠い浜名湖を〈遠淡海(とほつあふみ)〉とよび,遠江(とおとうみ)の国名はこれに由来するという。 湖の成因については,巨人の足跡に水がたまってできたという,巨人伝説による説明が多くなされてきた。古くは《播磨国風土記》託賀(たか)郡の地名起源譚に,昔大人(おおひと)があって〈その踰(ふ)みし迹処(あとどころ),数々(あまた),沼と成れり〉とある。…

※「巨人伝説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

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