日本大百科全書(ニッポニカ) 「大動脈弓症候群」の意味・わかりやすい解説
大動脈弓症候群
だいどうみゃくきゅうしょうこうぐん
原因のいかんを問わず、大動脈弓から分枝する主幹動脈の狭窄(きょうさく)ないし閉塞(へいそく)性病変によって頭部ならびに上肢の乏血症状を呈する疾患の総称である。原因として欧米では、梅毒性動脈炎、動脈硬化症、外傷、先天性の形態異常、非梅毒性動脈炎、血栓症、塞栓症、慢性解離性大動脈瘤(りゅう)、非血管性上部縦隔腫瘍(しゅよう)などがあげられていたが、大動脈弓症候群という名称は本来、同じ症状を呈する各種の疾患を整理するために提案されたものであり、臨床的診断として便利なため無批判的に使用され、種々の混乱を招くに至った。たとえば、日本に特異的に多いといわれる脈なし病(高安(たかやす)動脈炎)はその一つとして分類され、明らかに独立疾患として指摘されているにもかかわらず、欧米ではもちろん、日本でもしばしば他の疾患と混同されている場合が少なくない。これは、大動脈弓症候群が時代や人種によってその発生頻度が著明に異なることにも一因がある。
日本における大動脈弓症候群の成因をみると、上田英雄(うえだひでお)(1910―93)の成績では91.2%が脈なし病(高安動脈炎、大動脈炎症候群)で、梅毒性2.3%、動脈硬化性1.7%、先天性0.9%であり、大部分が脈なし病である。一方、欧米では動脈硬化症によるものが多く、アジア諸国でみられる高安動脈炎とは逆の関係にあるといえる。
[竹内慶治]